こなつ

ブルーに生まれついてのこなつのレビュー・感想・評価

ブルーに生まれついて(2015年製作の映画)
3.8
イーサン・ホークが1950年代のジャズ界で活躍したトランペット奏者チェット・ベイカーに扮し、その半生を描いた作品。ジャズにはあまり詳しくないが、家族にジャズを好きな人がいるので、チェット・ベイカーやマイルス・ディヴィスの名前くらいは知っていた。一部の熱狂的ジャズファンに向けて作られた作品かと思ったが、一人の才能ある男の波乱に満ちたその生涯に強く惹きつけられる。

黒人のミュージシャンが主流だった50年代、甘いマスクとソフトな歌声で女性を魅了し、一世を風靡したチェット・ベイカー。やがて麻薬に溺れ、どん底の日々を送ることになる。ドラッグ売人の手先から惨たらしい暴行を受け再起不能かと思われたが、映画の共演で知り合ったジェーン(カルメン・イジョゴ)という女性の献身的な愛で困難な道のりを乗り越えて行く。

前歯を全部失い、顎が砕けたというのに、普通トランペットなど吹けるようになるのだろうか?ジェーンとの温かく優しい時間の中で、もう一度舞台に立つことを夢見て麻薬も断ち努力を続けるベイカー。ベイカーがスポットライトから遠ざかった1960年代の低迷期に光をあてて作られた作品。

イーサン・ホークは、本作出演のため半年に及ぶトランペットの集中トレーニングを受け、劇中ではベイカーの代表曲「マイ・ファニー・バレンタイン」など甘い歌声を披露している。またナイーブで危なっかしいベイカーを巧みに演じ、本人に成りきった演技は素晴らしかった。人生の全てをかけた再起のラスト5分、完全復活をかけた一世一代の舞台で、彼が選んだ道は本当の幸せに繋がっていたのだろうか?ジェーンの毅然とした態度が切なくも心震えた。
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