おたしん

ルームのおたしんのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.5
衝撃的だった。
いつの間にか終わってると感じたほど時間が早く経ってた。
完全に引き込まれてしまいました。

冒頭の生活シーン。
一見どこにでもいる仲の良さそうな親子。
でも息子の髪の長さや風呂とトイレが剥き出しの暗い部屋に違和感を覚える。
この空間で生きているのかと。

勝手に母親が狂気的な愛で監禁しているのかと思ってました。
ジャックに真実を話した時は驚いた。
母親も監禁されているのか。
実際の事件を元にしているのも衝撃。
17歳で監禁され子供もそこで産ませられたなんて。
序盤で楽しそうな親子だと思ったことを忘れるぐらいどんどん窮屈に感じていく。
自由と時間を奪うのは大罪でしかない。

サイコパス男をどうにか出し抜いて脱出しないといけないんだからどんな手も使うよな。
ジャックが可哀想に見えるのと同時にやっと外に出られるんだよという希望。

彼にとって全てが初体験でどれほど不安と恐怖があったのかは想像できない。
それでも視界に入りきらない空を見た時の表情はすごく印象的だった。
キャッチコピーにもある「はじめまして、世界」を体現しているのかようだった。

ちゃんと助けを求められるか心配でずっと手を握り締めてました。
ジョイも脱出することができ無事2人とも自由な生活を取り戻すことができる。

でもここまでの息を飲むような監禁サスペンスがメインではないと思った。
前半部分でも映画1つ見たような気持ちだったけどそこからがまた考えさせられた。

2人の新しい生活。
家族との再会やジャックにとっての多すぎる"初めて"にも感動した。
それなのに何だかスッキリしきれない。
ジョイが「幸せなはずなのに」と言ってたように。
どんな幸せが訪れても喜びは一瞬なのか。
壮絶な経験をした親子をあれほど騒ぎ立てる近隣住民やマスコミも一瞬なのか。
人間の慣れも欲深さも怖い。

ジョイは落ち着いた暮らしに戻ったように見えたけど7年間監禁されていたらすぐに元通りになれなくても無理はない。
それでも大事に愛情を注いでたジャックに怒ったり側にいて欲しくないような言動は悲しかった。
監禁事件が無かったとして本当に大切に育てられていたのかとすら疑ってしまった。
心の傷は周りが思うより深いか。
全てが初めてで状況を飲み込むことに必死なジャックより時間が必要なのはジョイだったかもしれない。

一方でコミュニケーションを取ることが出来てきたり友達も作れたりと難なく成長していくジャック。
お婆ちゃんとの間に家族愛が生まれたときは泣けた。
まだまだ子供なのに大人みたいに頼もしく見えちゃったりする。

そんなジャックにとってあの部屋は何だったんだろう。
恋しがっていたし戻りたいとすら思っていた。
大好きな母親がずっと一緒にいてくれて愛情を感じれる居場所だったのかな。
見ている側からは監禁場所にすぎない部屋も彼にとっては思い出の詰まった空間だったのかな。
これはジャックにしか分からない思いがあるだろう。

それを踏まえたラスト。
一緒に過ごした家具たちに別れを告げるシーンは何故か寂しかった。
改めて狭すぎるところに閉じ込められてたんだなと感じた。
ジョイが"bye room"と呟いたときに彼女が前に進めた気がした。
トラウマを乗り越えたような。

初めて外に出て飛び出す勇気。
魔法の力がある髪を切る決断。
そしてラストシーンは3回目のジャックがジョイを助けた瞬間だと思いました。

監禁されているストーリーってのは知ってたけど思ってるのと違ってビックリ。
『ブリグズリーベア』と似てるけどあれほどポップな感じはしない。
実際の事件がベースだからかな。
愛のある監禁とそうでない監禁の差だろうか。
とにかく忘れられない映画になりました。


もうジェイコブ君の演技がエグい。
他の出演作品もいくつか見てるからすごいとは思ってたけどこの年齢のときから名演技ができちゃってたのね。
不安や恐怖の表情や目つきとか別世界に来たかのような感じ。
特に長い髪を触る仕草が自然すぎて。
こりゃ確かに天才子役って言われるわ。
お見事でした。
てかめちゃくちゃ幼い子供だったのに最近見た『グッドボーイズ』では下ネタ言いまくるほどに成長してたんですけど。
5年であんなに大きくなるもんですか。
これからも期待ですね。

あとジェイコブ君に目が行きがちだけどブリーラーソンの演技もすごかった。
監禁されてるときの怯え具合から解放された後のメンタルがやられてる若い女性。
愛情はあるものの母親としてまだ経験が浅い感じもあってよかった。
おたしん

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