MasaichiYaguchi

ルームのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.3
埼玉の女子中学生誘拐監禁事件の犯人が逮捕されたばかりなので、アカデミー賞をはじめとして数々の映画賞を受賞したことや、先日開催されたジャパンプレミアで来日した主演のブリー・ラーソンと子役のジェイコブ・トレンブレイの演技のこととかより、本作で描かれた“事件”の内容との類似性に注目が集まってしまいそうな気がする。
確かに“事件”の顛末が作品やヒロイン親子に深い影を落としているが、本作はこの手の作品に有り勝ちな犯人と被害者との関係、事件そのものを興味本位でクローズアップするようなことはしない。
本作品で中心となっているのは、7年もの期間、納屋を改造した“ルーム”で監禁生活を送ったジョイと、その生活の中で生まれたジャックとの母子関係。
この母子関係は、その成り立ちからジャックが5歳になるまでの経緯において全て異常だ。
だがこの関係は、長きに亘る息の詰まりそうなジョイの監禁生活において、折れそうになる心の支えになっている。
そして、この母子による決死の奇策によってピリオドが打たれた監禁生活後のドラマこそが本作が描きたかったことではないかと思う。
異常な状況下で成立していた母子関係が、光溢れる平穏な日常生活に置かれた時に生じる戸惑い、そして自分は悪くないのに、悔やんでも悔やみ切れない過去への思いが、メディアや周囲の野次馬的な取材や反応と共にこの母子に押し寄せてくる。
このエキセントリックな母と息子を、ブリー・ラーソンとジェイコブ・トレンブレイが抑えた表現で夫々キャラクターの感情の機微を掬い取るように演じているので、思わずその親子の世界観に引き込まれてしまう。
だから、この母と子が夫々人生で大きなトラウマになるであろうことに向き合い、それに対して手を取り合って乗り越えていこうとする姿に胸が熱くなる。