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ジョン・F・ドノヴァンの死と生のbibooのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

オープニングの切れ味が素晴らしい。

グザヴィエドランの作品を見るといつも胸を掻きむしられるような切なさと息苦しさが襲ってくる。どこにと言われればわからないけど作品全体からなんだかグザヴィエの人間臭さと純粋さが滲んでるからではないのかと思ってしまう。35mmで撮影されたどこを切り取っても絵になる鮮やかでお洒落な映像なんだけど、核に人間らしさが潜んでいる気がしてならない。その美しいビジュアルだからこそ物語の人間臭さと上手くバランスがとられていて、どちらかがくどくならない作りになっているのかもしれない。

クソみたいな建前が蔓延する汚れたこの世に降り立ってしまう天使のような人ってたまにいる。ジョンはそんな人なような気がした。秘密や悲しみを陰に孕んでるんだけど、目がピュアで美しい感じ、ジョンの尊さをキット・ハリントンがうまく演じていたと思う。純粋に生きていて、生きたくて、純粋で美しいあまり世間に殺されてしまった人。そういう人が数年に一度国内外問わず芸能界で苦しんでるのを見るたびに悲しくなる。

でも今作はそういう苦しみの末亡くなってしまった人の話ではあるんだけど、最後に希望が見られる作りになっていた。基本35mmで取っていて一部だけ65mmで撮ってるそうだけど、予想はラストシーンが65mmじゃないのかなと思った。ボーイフレンドと去っていくルパートがやけにキラキラして見えたから。マイプライベートアイダホのオマージュにも感じたんだけどどうなんだろう。
最後に希望があるからこそジョンの死がより切なく尊くも感じる。このクソみたいな風潮による犠牲を美しく尊いと表現するのはどうかと思うけど。

芸能人のアイデンティティ/セクシャリティは難しい問題だと改めて思った。一般人だったら割と自分でタイミングを測れることもあるけど、芸能人は勝手に晒されたり必要に迫られることもある分普通はしなくてもいい公表や業界を去ることを選択する人もいる。クライマックスの「物事は単純なのに人間が複雑にしている」というおじいちゃんの言葉が刺さる。
身を曝け出して表現しなければいけないアーティストの世界で、かなり芯の部分のアイデンティティを偽ることの苦しさは想像すらできないし、オープンにすることでキャリアにド直結してくるのは酷すぎる。結局全て社会の仕組みが悪い。

もとは4時間あったらしく、ジェシカチャステインのシーンが全カットなのはビビった。

ー「何よりも生きてほしい。
偽る前に生きること。
偽ることは避けられない。
ある種の嘘は最高のパフォーマンス。
そして時には嘘も純粋で美しい。」
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