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ジョン・F・ドノヴァンの死と生のogのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

一瞬の幸福でさえも、追い詰められ自暴自棄にならなければ掴めない人生なんて。抑圧で息ができない。

実はグザヴィエ・ドラン作品ってトムアットザファームとたかが世界の終わりしか見たことがなくて、両作品とも死がすぐそこにあって、不寛容で理解のない家族とかかわらざるを得なくて閉塞感で息苦しくて、どうにかしようともがいているうちに時間が来しまった、というような話に思えるんだけど、ジョンFドノヴァンはそんな中にも希望があって、監督が自分よりも若い世代に希望を見せるための映画に見えたな。11歳のルパートは母親と和解し、21歳のルパートは大切な人を見つけてそれを隠さずに生きている。彼の大きなテーマである家族と同性愛という両面から、救いや希望があることを若い登場人物を通して示してるのが良かった。
こうしてマイノリティ側が(今回であればこの映画の中に流れる10年間で世界は変わり)「差別する時代は終わった」と表現してるのに、マジョリティ側が差別することにしがみついてる現状って何なんだろうな、と思う。
母親と子供の和解点がエモーショナルという力技で押し通してるという感想は理解する。まだその和解点は本人の中で模索中なのかな、とも感じた。

‪今回の映画は家族と同性愛にさらにテレビ業界というきらびやかでありながら狭く厳しく、常に人の視線に晒され噂で人が死ぬような業界に身を置いているからこその問題が描かれていて、ルパートの「しかし彼が(自分や私生活を)さらけ出す必要があるのか?」と誰ともなく問いかけている言葉がとても印象的だった。これ常に私も同じことを思っていて、有名人が有名だからと言って全てを知らせる必要はないし、彼らの私生活を知りたがるのが当たり前って感じにすごく違和感がある。誰が誰と恋愛しようが勝手だし、どれだけ世間の常識とズレていようが、断罪できるのも許すことができるのも当事者だけなのに、なぜか世間は訳知り顔で勝手に虚構の真相を語ったり、想像で物を話したりする‬。土足で踏み込むのが当たり前という顔をしてる。ジョンはおそらくこの業界で生き抜くには優しすぎて、純粋すぎたのかも。
だからこそウィルの「僕は誰かの"秘密の存在"でいるつもりはない」という一言が胸に刺さった。そのときのジョンには他人を慮る余裕はなかったし、まさかウィルがそんな風に考えているなんて思いもしなかっただろうけど、どちらも俳優という立場上どうしても光と影ができる。ウィルはこのままではどこまでいっても"スターの愛人"というレッテルから逃れられない。ジョンはそれを言われるまで気付いていなかったと思うけど。ジョンに人生があるように、ウィルにも自分の夢や人生がある。
「恥じているのはきみのほうじゃ?」というウィルの言葉はジョンにはおそらく図星であり、図星でない部分もあって、恥じていなかろうとその事実だけで潰されかねない業界に我が身を置いているという恐怖が、彼の口を閉ざさせてしまったんだろうな。
関係を続けられないと言われたのが悔しくて彼本人が噂を流したのかと思ったけど、この言葉を聞くにそうではないような気がするな。ふたりの伝えきれない想いがドア越しの会話と表情に表れていて、見てるだけで辛かった。

ルパートの取材をしているオードリーとの会話もあまりにも現実の状況が込められていて、軽快に描きながらもドランの怒りを感じた。
オードリーは紛争地帯の取材や環境問題に明るいジャーナリストで、そもそも若い俳優の出版する本(バカな本と言ってた)なんか全然興味がないし、ジョンのことも知らないし死んだことだってどうでも良くて、口には出さないけど世の中にはもっと大きな問題があってそちらの取材に時間を割く方が有意義なのに、どうしてこう時間を無駄にしてるのかと思ってるような態度なんだよね。
話の途中まではずっとそう思ってて、どうでも良さそうな態度でルパートの話を聞いてるし、私はこの間までイスラマバードにいて(おそらく社会情勢などを追っていて)この話をどう記事にすれば良いのか(おそらくこんなただのスターの赤裸々暴露話、記事にしてどうなる?どんな意義がある?と思ってる)と言ってる。
ルパートが率直に怒りを向けて「これは恐怖、無知、不寛容の話だ。(あなたの追う社会問題や戦争の話と)性差別、同性愛差別はなにが違うのか」と、それが人を殺すこともあることを示さないとそれは変わらない。彼があえて彼女の出身地を訪ねるのはその自分では変えようのない事実自体が差別の対象になりかねないことを知ってるからだ。
最後にルパート自身も同性愛者であることがわかるわけだけど、この会話であらわにする怒りは、ジョンだけでなく自分のための怒りでもあることがわかる。箸にも棒にも引っかからないようなどうでもいい話題だと思い込んでいる身近な問題にこそ、大きくは社会問題や戦争にもかかわるような差別や苦しみが包含されてるんだと。

‪しかし相変わらずこの人の映画は不毛な会話でイライラさせるのがものすごくうまいな〜〜!!
親戚と親とで集まって食事してるシーン。彼の作品っていつも食事のシーンがメチャクチャ気まずくて、全然料理が美味しくなさそうなんだよな 家で食べる家庭料理に、振舞う人や食べる人の色々な思惑がトッピングされてるから人の顔色の味しかしないのが伝わってくる‬。
この人の映画は家族の機能不全の原因がいつも母親で苦手という感想をどこかで見たけど、そういう描き方だからこそ「母である前に人間」だと示してるんじゃないのかなぁとも思う。
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