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メッセージのKEiGOのネタバレレビュー・内容・結末

メッセージ(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

あるピアニストからのすゝめ

たとえどんな未来が待っていようとも、誰かを愛する気持ちは止められない。この作品を観て、僕はSFというジャンルの包容力に改めて驚くばかり。"物理学の法則を破るのは、ひとつの小説につきひとつかふたつまで、それ以外は現実世界を踏襲する。[1]" これはSF作家の不文律だ。『メッセージ』では、ばかうけこと「ヘプタポッド」が大きな嘘。この嘘のベールで隠されたテーマこそ、「人間が持つ愛という機構の深さ(ここはピアニストの受け売り笑)」だ。うーん、やはりここが面白い。

ルイーズが見た未来は変えられない。夫とは疎遠になり、最愛の娘は病で早くにこの世を去る。でも作品を観終わった後味は不思議と爽やかだ。それは彼女が来たるべき未来に打ちひしがれているからではなく、たとえどんな未来が待ち受けようとも、それまでの一瞬一瞬を最大限に愛そうと決めたから。
と、こう書くとあたかも希望に満ちたエンディングのように感じるが、原作の締めはちょっと違う。ルイーズは人類を超えた存在になったわけではなく、あくまで"事象の波に揺られる"存在に過ぎない。"そもそものはじめから、わたしは自分の運命を知っていたし、当然のものとしてそのルートを選びもした。[2]"以降の数センテンスで示される作者の意思は「今あるしあわせを自覚し、その尊さを嚙み締めろ」に近いと思う。だから映画の最後にドネリーは「もっと気持ちを伝えるかも」と言ったのだろう。

いやはや、思わぬところで黄金の精神を目撃した…笑 ぜっぜっぜっぜっぜっぜっ絶!!・・・対!ひゃくパーセントな運命を知ってしまったとき、果たして僕もそんな行動ができるのか。いや、そもそも自分はどうしたいのか。これを機に考えてみるのもまた僕の人生の物語。


参照
[1] ENOJY TOY & Design, 大きなウソをひとつだけ, 2010, Aug 21, https://tqy.hatenadiary.jp/entry/20100821/1282396142
[2] テッド・チャン, あなたの人生の物語, pp277-278, 早川書房
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