ももんがー

メッセージのももんがーのネタバレレビュー・内容・結末

メッセージ(2016年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

原作既読です。

チャン氏の発想をよくぞ映像にしてくれたとまずは感謝しきりです。

円環、始まりと終わりの曖昧さ。
時間軸という概念・自由意志という概念を持たないペプタポッドの存在・彼らによって変化したルイーズの価値観が映像、物語の構造とリンクして
非常に印象的に表現されていました。

しかし、原作からは以下の2点が決定的に異なっています。

1 原作はペプタポッドの概念では自由意志を許さない。

2 ペプタポッドは飛来した目的を告げない。

1に関しては原作では未来は不変であることが明確に示されています。よって、自分の未来を予知することによって未来を変えるタイムパラドックスは発生しません。
これは2にも派生することで、ペプタポッドはあらかじめ定められた通りに地球に飛来しただけで、彼らが意図的に地球に接触しているとは読み取れません。

これらから感じることは、
対地球外生命体との関係性の多様性です。
ソラリスの陽のもとにの、著者レムは対宇宙人との関係性は支配、従属、共存、そのほかにそれどれもできない「ただ触れるだけ」という4種あるということを述べています。
ペプタポッドの言動の基準は、人類の意思疎通の想定からまったく外れているように思えるのです。

そして、そんな彼らの自由意志の否定に感化されたルイーズは最愛の娘の死からも、おそらく彼女を身籠もるという選択からも抗いようがないと考えられます。
しかし、それによって悲壮的になるのではなく彼女は彼女の運命を肯定して生きています。

私たちは自分で運命を選べないのがほとんどです。現に誰しも、死から結果的には抗えません。
しかし、どんな気持ちでその生を生きるかは選ぶことができます。
与えられた人生を嘆き否定しながら生きるか、与えられた人生をそれでも肯定し慈しんで生きるのか。
選べなかったことが確実であるほど、ルイーズの強さひたむきさ愛情深さがわかります。

しかし、映画では後半のシーンでタイムパラドックスが生じるととれそうな、自由意志の肯定ともとれる出来事があるので、理論に一貫性が感じられません。
彼女は決して未来を救った英雄でも、未来に嘆く悲劇のヒロインでもない、

ただ母になることを望んで「選んだ」普通の女性であるということ

メインテーマは小説映画とも同じであるはずですが、
それが映画では少し霞んでしまったような気がして残念です。