イルーナ

リメンバー・ミーのイルーナのレビュー・感想・評価

リメンバー・ミー(2017年製作の映画)
4.5
メキシコの祭日「死者の日」という、大変ローカルなテーマの映画。
日にちといいハロウィンの亜種のように見なされがちですが、先祖とのつながりを忘れないための、とても大切な祭り。
ただでさえローカルな伝統文化な上に、年に一度しか行われないわけですから、当然直に見る形で取材できるのも年に一度。
かなりの難産だったと思われますが、それだけに作りこみが尋常じゃないです。
「魂のガイド」アレブリヘもこれで初めて知りました。調べたら意外に新しい文化かつ、夢から生まれたという成り立ちにビックリ。
ダンテの名前の由来、やっぱり『神曲』のダンテ・アリギエーリですよね?

まず、死者を表すガイコツのキャラ。
メキシコではスペイン征服よりはるか昔から用いられてきたモチーフですが、死を象徴するだけに、誰の中にも存在するにも関わらず気味悪がられがち。
加えて、表情を作る筋肉がないから余計に気味悪がられる。それをよくあそこまで愛嬌たっぷりにデフォルメできたなと感心しきりです。
もちろん、光や水、シワといった細かい表現も、もはや職人芸の域。
それだけに愛らしいキャラクターや、カラフルできらびやかな世界観が深みを増す。

曾々祖父の代に起きた事件をきっかけに、音楽禁止という因習にとらわれた一族。
これだけでも「あ、これ中南米を舞台にした小説とかでありそうだな」と思いました。
それだけ、「土着の匂い」を丁寧に再現しているんですね。
しかもこれだけで長い物語が作れそうなところを、プロローグで簡潔かつ独創的にまとめるという手腕。

また、音楽がテーマだけに、どれもキャッチ―で心に残る名曲ばかり。
特にメインテーマの『リメンバー・ミー』、予告の時点で「名曲」と言っているから、てっきりメキシコではスタンダードナンバーなのかと思ってしまいました。
そしてその歌が本来あるべきところに戻り、因習を終わらせ、家族の絆を蘇らせるラストは本当に涙がボロボロ止まらなくなります……タイトルの意味が切実すぎる。
これが邦題になって本当によかった。原題だと半分ネタバレ入っているから……

しかし、「陽気な死者の国」と言うから一見理想郷のように見えて、実はそこも露骨に格差社会。
エルネストのように死後もお布施を貰いながらゴージャスに暮らす者がいる一方で、現世で存在を忘れられつつあるものはスラムに追いやられている。
結局、どこに行ってもその構造から逃れられないなんて世知辛い……
さらに現世で完全に忘れられた死者は「二度目の死=本当の死」を迎え、完全に消滅してしまう。
よほどの偉人でもない限り、記録を取っておかないと、数世代前の先祖のことは忘却される。それ自体は自然なことなのですが、本作における忘却は基本的に死者や先祖へ対する最大の罰として描かれる。
「家族の絆」や「先祖とのつながり」をテーマにしている以上仕方ないとはいえ、「じゃあ、身寄りのない人や家族から愛されなかった人の立場は……?」という疑問が浮かぶ。
リアルでそういう境遇だった人が観ると、受け入れがたいものがあるかもしれません。
もう一つ細かい所で、死者の国にも入出国管理局があるのが妙にリアルでしたが、よく考えたらここの人たち、一年に一度の大イベントに参加するのが難しい立場ってこと……?それはちょっとかわいそう。

あと、日本語吹き替え版のフォント問題。もう毎度のことですが、今回特にひどいのはエルネストの罪が現世でも暴かれたあのシーン。
「Remenber me」が正反対の「Forget you」になるという痛烈な皮肉が伝わらない……なぜそこまでして誰得ローカライズにこだわる?!
イルーナ

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