きえ

葛城事件のきえのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
4.2
人が生まれて最初に接する小社会が家庭。どんな家庭に生まれ育っていくか、それは選べない。一方でどんな家庭にするかは自分で選ぶ事が出来る。

家庭とは選べる人間と選べない人間が出会う場所。幸も不幸も生み出す場所。
その事を再確認した映画。

そんな家庭と言う超個人空間にフォーカスされた作品は、登場人物ほぼ家族のみの狭く重苦しいある種の密室劇。

池田小無差別殺傷事件の犯人が育った家庭がベースとなり、その中でも視点は犯人ではなく父親。

どのようにして凶悪な思考を持つ男が生まれたのか、その答えを模索してしまうが、男に同情する作りにはなっていない。

淡々と、あくまで淡々と、高圧的な父親が家族の心を蝕んでいく様子が綴られている

皮肉にも実生活では理想の夫婦、理想の家庭を持つ三浦友和さんが、歪んだ理想に燃える父親を違和感ないくらいの怖さを持って熱演。観てるとこちらまで抑圧されどよーんとしてくる。

物語自体に大きな起伏がある訳ではなく家族の日常を見せられるだけなのにグイグイ引き込まれてしまうのは、家族を演じたそれぞれの役者の巧さと、怖いもの見たさと言う人間心理からだろうか。

ラストの大きな見せ場は吐き気がしそうな程気味悪く直視出来ない。一つ言うなら人々が逃げずに離れて見てるのは敢えての演出?それとも実際恐怖を目の前にした人間は走り去る事も出来なくなるのか?
そこの演出だけは個人的に若干不満。

次男が事件を起こしてからの三浦さんの演技は圧巻。何もかも失い死神にも拒絶され、家族1人1人の名前を呼ぶシーンは映画史に残ると言っても過言でない程巧かった

結果的に高圧的な暴君になってしまった父親だけど、良い家庭を築きたい、みんなで幸せになりたいと思っていた事が物悲しい。

人は育った家庭以外のお手本を知らない。
その意味で連鎖するとしたら… 父親自身にも哀れさを感じる

連鎖の内容は違うにしても他人事ではない恐ろしさ。正しい家庭なんて言う答えはないのだから。

最後に、田中麗奈さん演ずる獄中結婚した女もまた、この作品の肝になっている。
どう感じるかは観客次第だけど、私には、最も共感出来ない最もタチの悪い存在でしかなかった。

ずっしり重く尾を引く映画。
きえ

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