daiyuuki

ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

4.7
1995年8月、25歳の辰吉丈一郎はJBC(日本ボクシング・コミッション)のルールにより国内戦ができず、海外にリングを求めていた。アメリカ・ラスベガスから始まった取材は、次男・辰吉寿以輝がプロテストに合格した2014年11月、44歳の時までに及ぶ。20年間の様々な出来事で、辰吉の人間性、ボクシングに対する考え、父と子の絆、家族を愛することの大切さ、親として、そして一人のボクサーとしての心境の変化を、インタビューを中心に追い続けた。
「どついたるねん」などボクシング映画でも定評がある阪本順治監督が、天才ボクサー辰吉丈一郎と向き合うスポーツドキュメンタリー映画。
辰吉丈一郎のボクサー人生は、「あしたのジョー」のように波乱万丈だ。
小さい頃はいじめられっ子で、男手一人で自分を育ててくれた父親からボクシングの手解きを受け、単身大阪の帝拳ジムに入門し、プロ8戦目で世界王者についた。だが網膜剥離で日本での試合を禁じられて、海外で試合を重ね、日本ボクシング協会に特例として認められた薬師寺保栄との世界戦に敗れ一度は引退する。しかしその後、2度世界王者を獲得し、防衛戦を重ねたがウィラポンに2度敗れ、日本ボクシング協会のルールでボクサーライセンスを剥奪されても、タイのプロモーターと組んで試合を重ね4度目の世界王者獲得を目指している。
今回のドキュメンタリーが面白いのは、敢えて辰吉の周辺の人々のインタビューやボクシングの試合やトレーニングを省き、人間辰吉丈一郎に肉薄したところ。
前もって質問事項を決めず、阪本監督が辰吉丈一郎と雑談のようにインタビューしていく中で、辰吉の意外な人間性が見えてくる。例えば神戸の連続少年殺傷事件についてどう思うか聞かれた辰吉の答えは、「子供に親は大したことを教えられない。周りの環境や人間関係のルールが、子供の人間性に影響を与える」という一歩引いたスタンスで子供と向き合う親としての辰吉の素顔が見える。息子がボクシングを始めたことで期待するところはあるか聞かれた辰吉の答えは、「息子に期待はしない。そんなかわいそうなことはしない。必要な援助することがあるかもしれないけど、子供の邪魔になることはしない」という一歩引いて見守る辰吉の子育て哲学が、見える。
「何故引退しないのか?」「いつ満足してグローブを置くのか?」という阪本監督の質問に、辰吉は「父親に4度目の世界王者獲得したら納骨をして引退すると誓った」「ボクサーでいつづけることに自分の美学を懸けている」と強い執念を見せる一方、「自分が歯がゆくなる時がある」「ジムに向かう途中で俺何をしているんだろうと思うことがある」と気弱になったり揺れ動く複雑な心情を見せるところもある。
ボクサー辰吉丈一郎のファンには、人間辰吉丈一郎を知ることが出来る傑作スポーツドキュメンタリー映画。
daiyuuki

daiyuuki