りっく

お父さんと伊藤さんのりっくのレビュー・感想・評価

お父さんと伊藤さん(2015年製作の映画)
3.8
タナダユキ作品は風呂敷を広げすぎないのがいい。作品のカロリーと伝えたいメッセージやキャラクター配置のバランスがとてもいい。

本作も高齢になった万引き常習犯の父親の面倒を、長男と長女が押しつけ合う。そして、本作で一番の肉親であるふたりが最終的に何かを決断することはできない。同棲しているリリーフランキーに背中を押されてもだ。だが、自ら老人ホームで暮らすと決めた父親の背中を、ただ追いかける上野樹里。追いかけるという決断だけはできた長女。そこが実に誠実だと思う。

グッとくるのは、上野樹里が父親の1日を尾行する場面。お昼はひとりで木陰に座って食べ、かつて教鞭をとっていた学校をじっと眺め続ける父親の背中。それだけで、もう言葉はいらない。また、終盤でかつての教え子が家を訪ねてくるシーン。決して子供たちの前では見せない笑顔。そして娘さんに面倒を見てもらって先生は幸せ者ねと言うかつての教え子の前で彼女は泣きじゃくる。

藤竜也、リリーフランキーはもちろんいいのだが、上野樹里がいい。かつてのコメディリリーフのような誇張されたキャラクターが多かったが、人生の苦味を表現できる女優になった。
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