名も無き辛口評論家

キングスマン:ゴールデン・サークルの名も無き辛口評論家のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

これはスパイ映画ではない。王道のヒーロー物語。この映画を作った人々に敬意を表したい。アメリカ社会の問題と核心を突く作品。
作品では合法及び非合法を問わず薬物への問題提起を行なっている。社会性の高い作品メッセージがある。
観ていて、敵側の理屈にも「共感」できる内容が多岐に及ぶ。
ジュリアンムーア演じるポピーアダムズは、ミルトンフリードマンのような新自由主義政策と違法薬物全ての合法化と課税の上で自由な売買を要求する。しかし、その手段で人質とした薬物中毒者は、新薬のドローン供給で全員助けるというのだ。あくまでも理想主義を掲げて、違法な手段で目的を正当化する。だが、アメリカ大統領も、法律違反者の薬物中毒者を一掃したいと考えており、これもまた価値観として否定されるものではない。しかも、ポピーは薬物の過剰摂取で死ぬという皮肉まで背負っているのだから風刺が秀逸。
また、英國のキングスマンの元構成員がアメリカで組織するステイツマンが登場するが、ステイツマンのエージェントでペドロパスカルの演じるウイスキーが、薬物中毒者に妻とお腹の子を殺されており、復讐から薬物中毒者を見殺しにする為に主人公のタロンエガートン演じるエグジーとコリンファース演じるハリーと最期の死闘を演じるのは、どちらも正義がある。しかし、ポピーもウイスキーも、その過程で人を手にかけたり、株価と利益など邪な思想が見え隠れしており、最終的に善人で心の弱い薬物中毒者が無辜に殺されるのを阻止するという刹那的な正義と現状維持とヒロインのスウェーデン女王を救うという恋愛要素が最大限の動機となっている。

今回の内容で、まさかのヒロインは前回バレンタインに誘拐されて救出した際に一夜を共にしたスウェーデン女王が、まさかの正規ヒロインの座に就いていた。反面で前回も活躍したソフィークックソン演じるロキシーは、前半で殉職する。この死の原因は、前作のキングスマン試験で落第したチャーリーとポピーによるもので、キングスマンはアーサーを筆頭に早々に壊滅する。
また、コリンファース演じるハリー復活の代わりに、現場希望のマークストロング演じるマーリンが、エグジーを庇い亡くなるシーンからラストシーンへのヴォルテージを駆け上がる葬い合戦のシーンは圧巻。

今作は、初代ガラハットことハリー復活の影で、ランスロットことロキシー、アーサー、マーリン、JB(ジャックバウアー)などが死にすぎた。
しかし、不思議と戌年の日本と重なり犬への愛情溢れるシーンが、ハリー復活の鍵となる。

ハリーが見つけた貧困地区に住むが、実直で優しい心を有し、葛藤する主人公は、最後はスウェーデン女王と結婚する。

マナーが人を作る。徹底したアメリカ皮肉の作品であるが、身分に固定されず、常に心優しい善人で時として正しいことが考えられる主人公という、今の時代に求められる若者像が、映画の主人公に反映されている。