このレビューはネタバレを含みます
映画のタイトル「酔生夢死」は、何も成し遂げることなくいたずらに一生を終えることを指す四字熟語。
主人公ラットは、市場で野菜を売り生きている。彼は成績優秀で海外の大学へ行った兄に対するコンプレックスを抱えている。アルコール中毒の母は不慮の事故で亡くなったのだが、将来を託していた兄が母を見捨てて海外へ行ったせいだと決め込んでいる。一方、ラットが兄貴分として慕うのはホストの男。女を侍らせ、夜の世界で活躍している。
一見、コンプレックスを抱えているのはラットだけのように見えるが、結局ラットは自分の生活を成り立たせ兄貴分のホストの生き方に夢を見るので精一杯で、周りの人のことが見えていないのだ。
アルコール中毒の母はいつも酒を飲んではラットに「マシな人間になれ」と口うるさく言っていたが、その裏では母は望みの綱だった兄に見捨てられて孤独を感じていた。
兄は学歴優秀でラットの行く先を考えない生き方を批判していたが、その裏で母親にゲイという自分のアイデンティティを最後まで認めてもらえず、関係修復もできずに死なれてしまったことにコンプレックスを抱えている。
兄貴分と慕うホストは羽振りよく見えるが、実は死んでしまった母を人知れず思っており、子どもを孕ませてしまった前妻がいるという誰にも話していない過去を抱えている。
映画の中で、ラットは酒を飲んだくれているということはほぼずっと変わらないが、自分が助けた女と恋に落ちていく中で、周りが何も見えていなかった自分に気付いていっているように思える。
蟻や釣っても食べられない汚い魚のように、結局いたずらに終わる人生であることは変わらないかもしれない。それでも、自分の殻の中でしか物事を考えないということをやめ、大切にしたい人に思いを馳せ、彼らを守るための行動を起こすことの尊さを身を以て知ったのだろう。