垂直落下式サミング

ヤクザと憲法の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ヤクザと憲法(2015年製作の映画)
5.0
重々しい鉄製の扉が内側から開かれ、招き入れられた中で待っているのはホンモノのヤクザたち。普通なら入ることができないヤクザの事務所に、東海テレビのカメラが踏み入れる。
コワモテたちに囲まれながらの取材初日、それでは部屋をひとつひとつお見しせましょうかと案内される取材陣。表面上は歓迎してくれているようだが、けして下手に出ることはない。一応、撮影の許可は得ているはずなのに、息を飲むことが憚られるような静かな緊張感が張り詰める。こんな状況ならバーベキューに使う折り畳み式のテントを、大型のガンケースと見間違えてしまっても不思議ではないが、「マシンガンかと思いました((^^;」という間抜けなやり取りが笑いを誘う。被写体の緊張が解ける瞬間、ここに確かなドキュメンタリーの息遣いを感じた。
冒頭のテロップでは、「謝礼金は支払わない。収録テープ等を事前に見せない。顔へのモザイクは原則かけない」という取材に当たっての三つの約束が明示される。
上の条件を了承したという指定暴力団・二代目東組の二次団体である二代目清勇会に100日間密着し、彼等の日常生活を追いかける。
迎えてくれる構成員たちは、無愛想だったりフレンドリーだったり、各人対応は色々。信頼関係を築いて、背中の刺青はもちろん、小指のない手のひらもカメラは自然にとらえていく。そして、会長のお若いこと。カジュアルな普段着でいると30~40代にみえる。だがスーツ姿の貫禄はバッチリだ。
ヤクザの日常が静かに過ぎていくが、やはりアウトローたちの世界に怒号や暴力は付き物らしく、違法なオシゴトの様子や、トチった子分への手厳しい叱責など、なんとも怖い業界である。しかし、ここまで世論に石を投げられ、制度に締め付けられる様子をみせられると、見終わる頃には同情的な目線に落ちていってしまう。
本作はタイトルの示す通り、日本国憲法第14条によって、すべての国民に法の下の平等が保証されているのだから、暴排条例の制定は国家による重大な個人の権利侵害ではないかと、法の欺瞞に真摯に向き合っているのが興味深い。
「ヤクザ」と「乱暴者」を分ける一線があるとすれば、それは「仁義」があるかどうかだと思う。
本作は、これまで健常の社会からこぼれ落ちてしまったものたちの受け皿となり、国が踏み入れられない汚い事を生業とし、その清も濁も身一つで請け負ってきた任侠道の価値観そのものが、次の者に継承されずに消えてゆくことの問題を写している。
社会悪を根絶するため、さらなる規制強化が彼等を締め上げる。暴力団と行政、どちらがやくざか。時代が変わったのだと、その一言で片付けていいのか。自分には関係ない話なのだろうか。基本的な権利を剥奪され、排除される側はたまったもんじゃない。