MasaichiYaguchi

ビニー/信じる男のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ビニー/信じる男(2015年製作の映画)
3.7
「事実は小説よりも奇なり」と言うけれど、実在するアメリカ人プロボクサー、ビニ―・パジェンサの壮絶な復活劇を描く本作は余りにもドラマチックで、映画の終わりで出てくる当時のニュース等の映像を観るまでは俄に実話とは信じられなかった。
主人公は山あり谷ありのボクシング人生を歩んできたが、ケビン・ルーニーという良い師を得てこれからという時に、好事魔多しの如く人生の谷底に突き落とされるような厄災に見舞われる。
このような厄災に遭ったら、普通の人なら自分の不幸を嘆きながら、若しくは諦念と共に残りの人生を障害を抱えて生きると思うが、ビニ―はそうではない。
彼は命を脅かすリスクを厭わず、必死にボクサーに返り咲こうとする。
ボクシングはハングリースポーツと呼ばれるが、逆境を跳ね返し、どん底から這い上がろうとする彼のこの執念は、俗に言う「夢を諦めない」という表現が生温く感じられる程、鬼気迫るものがある。
「ロッキー」シリーズのシルヴェスター・スタローン、最近の作品では「サウスポー」のジェイク・ギレンホールが、栄光を目指してどん底から這い上がっていくボクサーを熱演しているが、本作では「セッション」のマイルズ・テラーが、「セッション」のラストの演技を凌ぐ“熱さ”でビニ―に成り切っている。
そして心身共に彼を支え、良い方向へ導こうとするトレーナーのケビンを「ハドソン川の奇跡」のアーロン・エッカートが硬軟使い分けて、いぶし銀のような魅力を放っている。
「まだ終わっていない」ビニ―が終盤で、ケビンの「お前の意地を見せてみろ。お前の生き様を、お前の戦う様を、お前の真価を」の言葉を受けて繰り広げるタイトルマッチは、たとえ結果が予想出来るものだとしても、観ていて思わず拳を強く握り締め、体の内から熱いものが込み上げてくるのを抑えられない。