チェーホフの短編小説『犬を連れた奥さん』を読んでることが前提みたいな話。
個人的には『犬を連れた奥さん』への批判として受け取った。エッチだったし面白かった。
面白いのは、2人ともあの短編小説を読んでいて、更に相手もそれを読んでいることを知っている点。つまり2人は自分達の不倫関係があの小説の再演であることを自覚している。(特に教授の側は)
しかし2人の小説に対するスタンスは異なっていて、教授は『犬を連れた奥さん』を崇拝してるけど、メルセデスは特に理解しないまま読んでいて、教授との関係も興味本位のものだった。2人の関係を神聖視している教授とは対照的だ。
ところが、映画の終盤でメルセデスは、メンヘラストーカーと化した教授に襲われることで、あの小説で描かれていなかった『奥さん』側の視点を獲得する。これは彼女の前に現れた犬の幻覚で示されている。
そして彼女は教授の前から立ち去る。
女側の視点が欠落した『犬を連れた奥さん』を崇拝している教授はその理由を理解できずに、何もかも失って崩れ落ちてしまう。
つまり「一緒に幸せになろうとか、完全にお前の独りよがりでしかねーから👎」ということ。
客観的に見れば教授が悪いんだけど、教授の気持ちも分かる。ラストカットの、子供みたいにうずくまって泣き出す情けない姿がとても良かった。(補足1)
補足1 ガビガビの画質のラストカットについて。
あそこで、カメラを教授について行かせるのではなく、離れたところからズームで撮っているのが上手いと思った。それはつまり彼から距離を取った演出ということだ。この映画は最後に彼を突き放して終わる。
──その他、細かな感想。
・「俺は本を書く時間を捨てて働いてるのに。まさか小説ゴッコとバカにしてた妻の方が出版に漕ぎ着けるなんて……!」という教授の気持ちは誉められたもんじゃないけど、まあそうよな〜って思う。
狂気のメンヘラストーカーと化してしまった教授だけど、僕は彼のことをかなり同情的に見ていた。
(保険として、「彼がやったことは間違ってる!!!最低男!!!」という意見は至極その通りだと思います)
・ストーカー中に鉢合わせしそうになって、トイレに逃げ込んでからの地獄みたいな流れが見てられなかった。