francois708

アトリエの春、昼下がりの裸婦のfrancois708のレビュー・感想・評価

4.0
邦題が意味不明なのだけど原題はシンプルに「春」で、冬という名の死に向いつつある病身の男が最後にもう一度春を見出す物語だった。ひとつひとつのシーンがていねいに美しく撮られている。
ベトナム戦争で傷を負って松葉杖になった男にしても、不治の病に冒されて体の自由がきかなくなりつつある彫刻家にしても、男は脆くてくずれやすく、破滅への傾きを抑えられない。それを温かく見守り、優しく慰め、春へ導くのが女性の役割というのは男性本位の甘えん坊の見方に過ぎないのかもしれない。背景音楽も含めて、すこしセンチメンタルに過ぎると思う部分もある。
酒と女と賭け事で身を持ち崩すミンギョンの夫がなぜそうなったのか、彼女の話からベトナム戦争のトラウマと想像されるけれど、そこのところがもっと具体的に描かれていれば説得力があっただろう。見ている限りはただのクズ亭主だものね。
彫刻家の前で裸でポーズをとるミンギョンが「なぜ裸でなければならないのですか」と問いかける場面、彼女の率直さがまぶしい。女性を裸にしてなめまわすように見るなんて、考えてみれば奇妙で倒錯的な行為で、それが彫刻だの芸術だのともちあげられてきたのが不思議に思えてくる。モデルが裸なのに芸術家が服を着ているのはなんだか不釣り合いというか、フェアじゃない。芸術家も裸にならなければ釣り合わない、なんて言ったら変ですか?
彫刻家の視線は同時に映画監督のそれでもある。監督は男性のようだけれど、女優の体を執拗にいろんな角度から撮るカメラワークに、ちょっと目を背けたくなってしまう。裸体を〈美しく〉撮ることと〈猥褻に〉撮ることの境目はどこにあるのだろう。美しく撮ろうとすることそれ自体が、すでに女性を対象化してもてあそんでいることにならないか。あの撮影で女優さんが性的な視線にさらされて心を病むようなことがなかっただろうか。女性の監督ならあの場面をどのように撮るだろうか。
彫刻家の妻の感情を抑えた演技が心に残る。彼女がミンギョンをお風呂に入れて洗ったり腋の毛を剃ったり、赤いワンピースを贈ったりする場面が美しい。
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