黒田隆憲

さざなみの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

さざなみ(2015年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

多かれ少なかれ、人はきっと誰もが心の隅にずっと消えない「想い」のようなものを仕舞い込んだまま生きていくのだと思う。どんなに素晴らしい、新たな出会いがあったとしても、決して「上書き保存」されることはない誰かと、その誰かとの思い出。人間のイマジネーションはどこまでも自由であり、第三者の手によって葬り去ることなど絶対に不可能なのだ。

本作の主人公シャーロット・ランプリングは、結婚生活45年目にして夫への不信感を募らせていく。自分と出会う前、彼は彼の子供を身篭った恋人を山で喪っていて、そのことを今日までずっと黙っていた。結婚45周年パーティーが開催される1週間ほど前、ある一通の手紙が届いたことでその事実が露わになるのだが、人生の半分以上を共に連れ添った夫婦であっても、たった一週間でその絆はあっけなく崩れ去っていくこともあるのだなと改めて実感した。

「彼女が、そこら中にいる。今も(あなたの)後ろに立っている。染み込んでいるの。何かを決めるとき、旅行の行き先や読む本、どんな犬を飼うか、どんな曲を聴くか、大きな決断の時は特に(彼女が)影響しているわ」

と、夫に訴えるシャーロットの心境たるや。とりあえず夫ジェフよ、昔の彼女との思い出の品は徹底的に消去しておけ……そして思い出は心の中だけに残しておきなさい。

ラストシーンのシャーロット、結婚45周年記念パーティーでの夫の“感動的な”スピーチに白ける表情や、プラターズ「煙が目にしみる」を夫と踊り終えた直後に手を振り払う時の表情など、身につまされて胸がえぐられるかと思った。静かな作品だったが、心の中はグチャグチャになりました。

あ、シャーロットの飼い犬の名前が「マックス」だったんだけど、彼女の過去映画『マックス、モン・アムール』のチンパンジー、マックスから拝借しているわけじゃないですよね?😊
黒田隆憲

黒田隆憲