ボブおじさん

シティ・オブ・ゴッドのボブおじさんのレビュー・感想・評価

シティ・オブ・ゴッド(2002年製作の映画)
4.4
映画史上最年少のストリートギャング軍団の実情を描いた目を疑うような貧困と暴力。少し前の映画だが、ブラジルの治安の悪さと警察の腐敗は今も変わらない。子どもたちは生き延びるためにギャングの手下として盗みをはたらきドラッグを売りさばき、銃さえ手にする。

小学生が銃を持って強盗を働く映画を日本で撮ったら、間違えなくコメディ映画になるだろう。少し前なら福くんや愛菜ちゃんが帽子にサングラス姿で〝手を上げろ〟などとやってるイメージしか思い浮かばない。

だがリオ・デ・ジャネイロにある「シティ・オブ・ゴッド(神の街)」と呼ばれる郊外のスラムを描いたこの映画は、コメディとはかけ離れた陰鬱な悪夢だ。

まだ半ズボンが似合いそうな少年たちが、銃を片手に人を撃ち殺す。コメディどころかフィクションですらない現実がそこにはあった。

原作は自らが〝神の街〟出身の作家パウロ・リンスによる登場人物600人という壮大なスケールのノン・フィクション年代記。時代は1960年代から80年代にかけての約20年間。

この登場人物の多い長大な物語を監督のフェルナンド・メイレレスがデビュー作とは思えない鮮やかな技巧で130分にまとめ上げる。細かいカット割や画面分割、時空を跨ぐジャンプカットなどを駆使して、この社会性の強いテーマをポップに仕上げた。

物語の軸にいるのは2人の少年だ。1人は荒れ狂う貧民街から逃れたがっているブスカペというカメラマンを夢見る少年。もう1人は街一番のギャングとして成り上がることを夢見るリトル・ダイスという少年だ。2人の人生が、双曲線のように接近したり離れたりする。

最悪の治安とはどんなものか知りたければ、この映画を見ればいい。貧困という病に街全体が侵され、出口の見えぬ連鎖が続く中、子どもたちが当たり前のように銃を持つ狂った現実が描かれる。

平和な日本でこの映画を見ていてもどこか現実離れして見えてしまうが、ラストに映る実際のインタビュー映像が、この物語が紛れもない現実であることを示してくれる。

〈あらすじ〉
1960年代後半、ブラジル。リオデジャネイロ近郊に公営住宅が新設されるが、よそのスラムを追い出されて流れてきた貧しい面々が移り住む。そこで育った仲良し少年3人組のうち、心優しいブスカペは写真記者志望の青年に成長するが、リトル・ダイスと親友のベネはギャングとなり、犯罪と暴力が浸透して無法地帯と化した公営住宅全域を支配する街一番の悪党に成り上がる。やがてベネは街を出ようと決めるが、その送別会の日に悲劇が…。