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ラスト・チャンツ・フォー・ア・スロー・ダンス(原題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

4.3
【太陽が眩しかったから】
『死ぬまでに観たい映画1001本』には、観賞困難作、「誰だお前は?」となる作品が結構あるのですがその中でも謎レベルが高い作品がある。

『Last Chants for a Slow Dance』は本書に言わせれば、「ポール・シュレイダーの『ライト・スリーパー』(1991)や、ポール・トーマス・アンダーソンやロッジ・ケリガンの作品よりも遥か昔に、本作品は存在した。」とのこと。この超インディーズ映画にアンダーソンの面影を感じることができると聞いて、長らく探していたのですがDVD化もまともに行われておらずほとんど観ることのできない作品でした。しかし、有識者曰くVimeoで配信し始めたとの情報を受け、調べてみたら本当に1600円程でレンタルできるようだ。ってわけで観てみました。

2020年の文脈で描くのであれば、「グランド・セフト・オートシリーズやラース・フォン・トリアーの『ハウス・ジャック・ビルト』(2018)よりも遥か昔に、本作品は存在した。」となるだろう。

延々とハイウェイを爆走する車の轍を捉える。おっさんが大声でぶつくさ文句を言っている。その声の大きさの異様さから、この男のクレイジーさを感じ取る。そして長い長い太陽燦々逆光で照らされる車は突然パンをし、寡黙な男に向かって、もとい会話のドッヂボールですらない明後日の方向へ言葉を投げつけていることが判明する。終いには、寡黙な男を路上に放置して去っていってしまう。

彼は妻がいるのだが、彼女のことはどうでもよくて家出しているのだ。金なし、職なし、そして子供を欲しがらない。アメリカ社会の理想家庭である、妻がいてお金も仕事もあっての生活からRUN AWAYしているのだ。そんな彼は味わい深いカントリーソングをバックに、ただひたすらバーやダイナーを巡り、人生という長い時間を潰している。1960年代、大人の作った社会に反発するようにヒッピーカルチャーが登場したが、そんなカルチャーも1969年のウッドストックを皮切りに終焉に向かった。もはや時代遅れになりつつあるライフスタイルにおっさんはしがみつき、逆光の恍惚の中、虚無の青春を謳歌するのだ。

そしてそんな男は唐突な殺人を行い映画が終わる。

なぜ?

と掘り下げても、

「太陽が眩しかったから」

と言った回答しか得られないような唐突さに唖然とさせられる。

まさしくこの映画の副題にもなっている《DEAD END》を象徴させているのだ。

これは人生に行き詰まった男の鎮魂歌であり讃美歌である。人生の終着点における最後の輝きと、滅亡が驚くほどに美しいショットの中で封じ込められた傑作なのだ。

ジョン・ジョストの鋭いアメリカ社会の洞察は『The Bed You Sleep In』でも顕著だとのこと。《アメリカン・ドリーム》を批判した『The Bed You Sleep In』は今後観てみたい作品である。
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