【詩でコーヒー代を払う男、絶壁へ】
先日発表されたFILM COMMENTの2024年未配給作品ベスト。知らない映画は入手して観ようと思い、早速『Lázaro at Night』に触れてみた。
本作は、いわゆるホン・サンス系ともいえよう俳優同士の会話を通じて人間心理を掴もうとする作品である。ホン・サンスと異なる点は、画や編集が映画的リッチさを持っていることである。たとえば、序盤のコンサート会場において、不安を煽りような音楽と独白により画と音の不一致を発生させ、ヒト対ヒトのひりついた関係性が抽出されていく。「詩でコーヒー代を払った」といういかにもホン・サンスっぽい展開が行われる場面でも、キッチンの反射によって、カメラの死角にいる猫の様子が浮かび上がるヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻像」に近い面白さが隠されている。
映画は中盤になると中南米映画おきまりのマジックリアリズム的展開になるのだが、ラ・トゥールを彷彿とさせるろうそくの扱いや、突如メテオラのような空間に投げ出される驚きの場面が連続し、話自体は退屈なものの、画に魅了されたのであった。
■FILM COMMENT2024年未配給映画ベスト
1.ノー・アザー・ランド 故郷は他にない(バゼル・エイドラ
、ユーバール・アブラハム、ハムダーン・バラール、ラケル・ゾール)
2.孤独の午後(アルベール・セラ)
3.ダイレクト・アクション(ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル)
4.ぺぺ(ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス)
5.Scénarios + Exposé du film annonce du film “Scénario”(ジャン=リュック・ゴダール)
6.exergue – on documenta 14(Dimitris Athyridis)
7.Cloud クラウド(黒沢清)
8. Bluish(ミレーナ・チェルノフスキー、リリス・クラクスナー)
9.My Undesirable Friends: Part I – Last Air in Moscow(Julia Loktev)
10.Lázaro at Night(ニコラス・ペレーダ)