このレビューはネタバレを含みます
実際に2009年に起きた航空機着水事故をモデルに、クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演で作られた作品であります。
まず、邦題を上手につけましたね。原題の『Sully』では、日本の観客には訴求力が弱い。
『 Butch Cassidy and the Sundance Kid』を『明日に向かって撃て』というタイトルにしたのと同じくらいうまくやりました。
宣伝部さん、グッジョブです!
そしてこの作品。
実話ベースではありますが、脚色されたドラマであり、ドキュメンタリーではないということが評価のポイントになってきます。
155人の乗客を、機転と抜群のテクニックによって、操向不能になった旅客機を見事ハドソン川に着水させた機長、サレンバーガー(通称サリー)が英雄として称えられることから始まりますが、物語が進むにつれて、機長の判断は誤りで、近くの空港に不時着できたのではないかという疑念が起こりはじめます。
国家運輸安全委員会が主導してこの説を唱え、サリーが次第に自分の判断に対して不安を持ち始めるのです。
この国家運輸安全委員会の描き方が、なんだか中途半端な感じがしていたのですが、なるほど、この部分はドラマとして脚色された部分だと後になって知りました。
事実としてのこの事故をドラマにするのに盛り上げるための悪役だったわけですね。
とすれば、ドラマにしては弱い。
もっと執拗な追及、主人公が反論できないような証拠をそろえて持ってくるくらいのことをしないと盛り上がらない。
主人公が酒場で飲んでいるときに、その場での会話で、国家運輸安全委員会への反証のヒントを得るというのも弱いなあ。
そのあたりがもっと強く描けてたら、公聴会の場面が爽快になったことでしょう。
あくまでも、これはドラマとしての視点ですが。
ドラマと史実の狭間にあるこの作品の立ち位置の弱さが残念。
時折挟まれる、サリーの若き日の回想場面も、サリーの人間性を浮かび上がらせるまでには至っていないのが残念。
ことあるごとにサリーはジョギングをしているのですが、ドラマとしてならそこになにか意味を持たせることもできたはず。
これは、作品としてのスケールの大きさを意識強調し過ぎた弊害であり、脚本のトッド・コマーニキの力量不足であったかも。
ですが、本作の撮影用にエアバスを買い、当時の乗客の救助に当たったメンバーをできるだけそろえたり、イーストウッド監督のこの作品にかける執念は感じました。
鳥がエンジンに突っ込んで停止してしまってからの描写も熱がこもっていて力が入る。
アメリカ的英雄礼賛のフランク・キャプラ風の作品で、イーストウッド監督が好きそうなテーマですね。
重箱の隅をつつくようなレビューになりましたけど、娯楽作品としては十分楽しめると思います。