ジョンマルコビッチ総統

劔岳 点の記のジョンマルコビッチ総統のレビュー・感想・評価

劔岳 点の記(2008年製作の映画)
4.3
明治39年。前人未到の劒岳の観測登頂という大事業に臨む主人公たちの物語。

古くは修験道・立山信仰の地であり、信仰の上でもその険しさにおいても未踏の地であった劒岳。
吹雪、絶壁、圧倒的な大自然と、対比されるように配置された卑小な人間である主人公らが、ただひとつの己と向き合い、その険しい頂を健気にひたすらに目指す姿は、静謐ながら深い感動を呼び起こす。

実際に監督スタッフ演者ともども山岳に登り撮影されたという映像は、常にピンと張り詰めたように清亮としており、ゾッとするほどの山の美しさを存分に映し出している。音楽監督として編曲に徹したという池辺晋一郎氏の作り出す格調高いクラシックの名曲たちが驚くほど映像に寄り添い、見ているだけで清廉で明晰な気持ちになる。

香川照之はじめ、俳優陣の演技も素晴らしく、自然が美しく厳しいほど浮き彫りになる人間の感情を繊細に演じきっている。

自然讃歌であり人間讃歌でもある本作。
日本の物語らしい最後の展開も、レンズを通して彼らと共に劒岳に挑み、劒岳の信仰や美しさ、途方もない虚無を体感した視聴者に深い余韻を残しとても良い。

日本映画のその美学の粋を感じさせる名作。
山の日にこの映画を選んで良かった。