Cape

フォードvsフェラーリのCapeのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
4.3
喧嘩を売ってきたフェラーリに対し相手の得意分野である24時間耐久カーレースで打ち負かしてやろうと二代目フォードが本気になる話。元優勝レーサーであるシェルビーがマネージャー的立ち位置として民間からオファーされるところから話は展開。彼が目をつける少々扱いにくい現役レーサー、ケンと共に世界一速くて頑丈なクルマを作り、フェラーリに勝つことはもちろん、社内対立した他のフォード車に勝つことを目指し人生を捧げる話である。レースシーンはもちろん、社内反対派が多いケンをドライバーとして採用されるようマネージャーとして、工夫し手回しするシェルビーの葛藤が見どころ。男に男が詰まった映画である。

<1.クルマに対する興味>
一般のおとこのこと違い、僕はスポーツカーや高級車に興味がない子供だった。天性の天邪鬼だから、トミカだスポーツカーだ目を光らせて言う周りの保育園児を鼻で笑っていたところがある。きっとその中の何人かはみんなに口裏合わせていただけで格好悪いというのも気づいていた。その年齢らしい生き方ができないのが僕のイタイところなのだけど。

そもそも乗り物系は、自分が今すぐにでも乗れないものだと興味が湧きにくいとこがあったのかもしれない。デカレンジャーの最後5分、巨大化した敵とロボの対戦は大体見てない。

サイズ感も大事だ。変身ベルトだって、トイザらスで5000円くらいで買えるおもちゃよりホクレンやダイエーで売ってる500円くらいのお菓子のおもちゃがよかった。なぜならトイザらスの方はサイズがデカすぎて”つけられてる感”があったからだ。おもちゃのお菓子はいい意味でサイズダウンされてて、自分で作ったというストーリーも相待って大事にした。この論でいくと巨大ロボのタカラトミー製おもちゃは今度は縮小のしすぎで魅力がない。自分で段ボールで作ったコクピットの方がまだワクワクした。どのボタンを押しても動かないし鳴らないから、手動で動かし地声でサウンドを発した。

さて、車の話に戻る。あまり裕福そうではない僕の近所でスポーツカーに乗っている大人は格好悪かった。つまり将来的な貯蓄とか考えてない向こう見ずで無謀な買い物の象徴だった。年齢不相応な若い運転手が多いイメージだったし、ちゃらけたお兄さんが乗っていたスポーツカーは数年で安くて小さい自家用に代わっていた。

そんなこの僕が、この映画を見てワクワクした。ケンが乗ってるシボレーも、シェルビーが乗ってる小さくてかわいくて速い車も欲しいと思った。僕も眠れない夜、仕事仲間を乗せなにか力作を眺めたい。仲違いした相手の元にシンプルだが馬力のある車で出向き、「30分だけだから」と言って走らせたい。いつどの場面で使うかもわからない7000rpmのついた車で田舎を走りたい。何てロマンがあるんだ。

この映画で車に憧れたのはきっと、さまざまな要因が絡み合っている。そもそも乗る人に対する憧れの投影がある。生活に合わせた機能を備えた地に足のついた車に乗っている現実感、見栄から出た購入ではないというのもある。生活の中心にクルマがある、つまりクルマにたくさんのストーリーが詰まっているというのもある。

<2.ケンの妻>
ところで、フォード車レーサーであるケンの妻が魅力的すぎる。彼女は、夢を追う夫が好きだ。彼は世間的には金のない負け組でしかないのだけれど、それでも彼の背中に憧れる息子を誇りに思う。夢を追う夫の資金が尽きて諦めそうになってもあくまで夢を追わせる。無理矢理追わせる。というかむしろ彼が夢を追わなくなったら捨てるのでは?と思うほどの勢い。ケンが夢につながる仕事を引き受けるか1人で相談もせず悩んでいた際、彼を車に乗せてスピードを上げ決断させるシーンはファイトクラブのタイラーダーデンの運転を連想させる。

夫が因縁の仕事仲間といざこざがあり近所で殴り合いをしても、それが見える位置までベンチを運び、彼らを眺めながら本を読む。まるでおとこのこは喧嘩で仲良くなるのよって放任教育する強力ママだ。

夢に敗れた時は穏やかな癒しで満たすのもあっぱれでしかない。ケンは自らが車を設計したのにも関わらず、その人間性からフォード車のドライバー選抜に落とされる。まだ懸念点があった彼の車の動向が気になり取り憑かれるようにラジオを聴く彼の注意を自分に逸らし、シャンパン(のようなもの)を差し出すのは彼女だ。

最近読んだ本によると、起業家とかスポーツマンとか、そういう”攻めた”生き方をする男にはそれに耐えられる価値観を持つ女が必要らしい。起業精神を持つ人は起業に興味がある人とパートナーになるべきらしい。だがどうやらこの映画は違うなと思った。彼女は地に足のついた生活が得意で、家庭的で子供を大事にする。過激派には過激派をという意味ではないのかもしれない。自分はそういう攻めたことをしなくても、そういう生き方をしている相手に興味を持ち、少なくともその生き方に不満を持つことは(努力でなく自然に)極力少なくて…って感じなのかな。まだよくわからないけれど、とりあえずケンの妻みたいな人いいな、と思った。

<3.熱中できる仕事>
前述したが、彼らは24時間耐久レースを仕事にしている時点でおかしいし、夜な夜な仕事場にいる姿は見る人によってはワーカホリックでブラック企業に違いない。でもそもそも彼らはその仕事そのものが人生であるに違いない。仲間の背中が燃えても死なないなら大丈夫とケロッとしているところがある。当の燃えた本人も忘れてしまったかのようにまたフォードに乗る。さながら人生を賭けている様子がそこにも見て取れる。

僕も何か没頭できるものが欲しい。そして誰にも負けないその分野の第一人者になりたい。そのためにはどうすれば良いのか、実際にベンチャーでアルバイトをして彼らの背中を眺めてみたり、自分の興味と向き合ってみたり四苦八苦というのが今だ。アンテナを張っている限り少しずつ自分もアップデートされているのを感じる。いい意味で常に焦りをもち、しかし地に足をつけ毎日少しづつ挑戦を重ねた先に彼らのような生活が待っていると信じることにする。

c.f. 2時間半ぶっ通しで見られる映画ってそうそうないと思う。この映画はところどころハラハラ展開を兼ねており、2時間半を意識せず熱中することができた。
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