Keigo

レッドタートル ある島の物語のKeigoのレビュー・感想・評価

4.0
いつものトトロのジブリロゴ画面が赤い。
…ほう、珍しいな。
『レッドタートル』だからか。
ジブリらしからぬフォントで赤い英字が並ぶ。
そして画面には嵐の中で荒波にもまれる一人の男。
おいおい、どしたよ…大丈夫か?
命からがら小舟にしがみつく男。
しかし激しい波で小舟大破。
暗転からの仏題『La Tortue rouge』

…島に漂着した男と同様に、観ている自分もまだ何も分からない。彼はどんな人物なのか、どこから来たのか、なぜ遭難したのか。男は話すこともなければ表情もほとんどない。与えられる情報が極端に少ない。だからこそ画面の隅々まで目をこらし、環境音に耳をすませる。主体的に情報を探す。島の状況、海の状況、他に人はいるのか、どんな生き物がいるのか、どんな植物があるのか、男はどんな行動を取るのか、男はどんな感情なのか。

衰弱しながら竹を集め筏を作って海に出るも、何者かに何度も行く手を阻まれる。
男の心が徐々に折れていくのと同じように、次第に自分も表面上の“なぜ”を追い求めるのを諦め始める。やがて、ただそこにある自然と生命を眺めるようになる。

レッドタートルはなぜ男の行く手を阻んだのか。その解釈は観客に委ねられている。僕はラストシーンを観て、レッドタートルはあの程度の筏で海に出ても助かる希望はないに等しいということを、教えてくれたのではないかと思う。

気が付くとある場所にいる。
なぜここにいるのか、分からないまま生きている。逃げ出したくなる時もある。ここではないどこかへ行きたくなる。いっそ消えてしまいたくもなる。それでも生きていくにはどうすればいいか。彼らの生活を眺めながら、考える。
Keigo

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