土の中からこんにちは太郎さん

ホームレス ニューヨークと寝た男の土の中からこんにちは太郎さんのレビュー・感想・評価

4.2
容姿とファッションセンス(センスを裏打ちする努力も持っている)に恵まれたひとりの男の話。
情熱的に、ドラティックに自分の人生を彩りたい
何者かに、大物に、本物になりたいと心から願っているが、立派な中年になっても未だ納得する自分にはなれていないひとりの男の人生の一部を切り取ったドキュメンタリー。

このおっちゃんのファッションセンス好き。
抱いた大志と現実との乖離から自殺を考えるほど夢見人。
豪胆なようでいて繊細。
そして、満足というものをしたことが無いらしい。
弱くて、だからこそ強くあろうとしている姿が人間臭くてこのおっちゃんが好きになった。
音楽もジャズだけど押し付けがましくなく感じられる選曲で好き。

『身なりひとつで他人からの評価はガラリと変わる』と常々思っていた。
ホームレスながらお洒落なこのおっちゃんが言う「(身なりがきちんとしてるから)怪しまれない」はあらゆる意味でよく分かる。
人から揶揄され見下される側だった私自身、身なりに気を配り、ボディメイクをし、お洒落と認識されるお店でサービスを提供する側に回った時、見られている目つきが変わったことを厭という程感じた。

自殺を考えていた時に"渡りに舟"、長期の旅行に行く友人からアパートの鍵を借りて、ちゃっかり鍵をコピーしてそれ以来コソコソと屋上でホームレス生活。
すごい運と肝っ玉の持ち主。

世界規模で平均寿命は延びまくり、生きていくうえで必要不可欠以上の物を求める人々と求められる以上に次々と新しい物が産まれている今の世。
このマーク・レイ氏の生き方は極端で、真似をしようとは思わないけど、そんな今の世の中でこんな生き方を選択する人が居ることも自然な気がする。
"実話を基に映画化"ではなく、ドキュメンタリーというリアルな視点で観ることが出来て良かった。
お母さんに会いに行く電車の中で吐露した過去は、本人も思わず気が緩んで出た言葉のように見えた。
すごく生々しく他人の人生を一方的に覗き見したような妙な体験をした。