MasaichiYaguchi

素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.6
タイトルの「奇妙な代理店」で取り扱っているのは“人生一度限りの旅”。
ただこの“旅”は片道切符で、目的地は彼の世。
だから、この“旅行”代理店の名称は如何にもの“ELYSIUM”(死後の楽園)。
考えてみると、この代理店のあるベルギーは安楽死を認める法律のある国だ。
この奇妙な代理店は表向きは葬儀屋だが、自殺ほう助する裏稼業をしている。
物語は、母の死を切っ掛けに自らの人生に終止符を打とうと決意した主人公ヤーコブが、この代理店を訪れたことから本格的に動き出す。
このヤーコブは桁外れの金持ちで、マザーコンプレックスでもないのに、何故母の後追いをするのか疑問だったが、ストーリーが展開するにつれ、少年時代にあった不幸により彼が心に深い傷を負い続けていることが分かってくる。
生きることに喜びを見出せず、死と向き合ってから始まる主人公の人生の転機。
「一寸先は闇」と言われるが、これとは逆に「一寸先は光」ということがあっても良いと思う。
人生は皮肉なもので、絶望の淵に立たされている時に光が差してきたり、死中に活を見出したりする。
代理店に“サプライズ”な旅を予約したのに、素敵な出会いをして生に執着し始めた主人公には、どのような“サプライズ”が待ち受け、どのような結末を迎えるのか。
死を選ぶのは簡単だが、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」の言葉のように、死ぬ気で生きていれば、良いことだってあるかもしれない。
本作は、死と向き合うことで逆に生きる輝きを見出していく男の姿を、ブラックユーモアを交えて描いた“大人のおとぎ話”だと思う。