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シング・ストリート 未来へのうたのkouのレビュー・感想・評価

5.0
《僕等は自由でいられる》

青春映画の輝きを閉じ込めたような、素晴らしい映画だった。
「僕はロックが好きで、とても魅力的な女の子に恋していた。」本作を一言でいえばそんな映画だ。ただそこには多くの事が付加されていた。音楽が時に言葉より饒舌に思いを伝え、そしていつでも自由の象徴であり続ける事。そして、時に残酷でシリアスな現実と、その中での光を描いた傑作だった。とてもバランスがよく、甘さでなく苦さまで、俯瞰的でありながらエモーショナルである作品だと思う。

この映画は主人公コナーの両親が離婚寸前で、学費の安い学校へ転校することから始まる。青春という時はいつだって輝いて見えるけれど、決してそんな事ばかりじゃなかった。学校はわけのわからない校則を押し付けるし、周りの大人は怒鳴ってばかりいる。自分を騒音や暴力で傷つけてくるものばかりで、息もできないほどだった。そんな環境にいる主人公を救うものが2つある。1つは音楽、もう1つは好きになった女の子だ。

彼が魅力的な女の子ラフィナに出会い、そして音楽を始める。バンド仲間を集め、自分の好きな音楽を歌う。ロックだけに限らず、あの時期の少年達がたどるように、何かに熱中し仲間と何かをするということの輝きが観ていて嬉しくなる。コナーが音楽を奏で、バンドをする事で自分の個性や思いを形にしていく過程にぐっとくるのだ。その成長と、ラフィナとの恋愛に、誰もが過去を振り返って、微笑ましくもありながら頼もしくも思うだろう。そして、切なさも含んでいる。

終盤、彼らが学校でのラストギグを行う。そこで歌うバラードが素敵であるのと同時に、コナーとラフィナを繋ぐのが音楽であったという事を改めて知り、涙してしまう。彼女が見ていたのはアイルランドの閉鎖的な街でなく、より自由に自分を表現できる場所だった。でもコナーは、ラフィナをずっと見ていて、そして彼女への歌を作っていたという事実に、泣けてしまう。

そして、そこから彼らの自由を謳うようなロックな1曲が流れる。どうしてこうも、エモーショナルでワクワクするイントロは泣けてきてしまうんだろう。彼らのバンド、「シングストリート」のメンバーのキャラクターの立ち方も含め感動する。

いつだって、なんだって僕らの好きなものや、やりたいことを縛り付けることなんてできない。どんな力も、どんな権力も、僕らは好きな音楽を聴いて、そして恋をして、自由に好きなように生きていける。そんな姿が最高だった。それに加えて「開かなかったあの扉」が開く。素晴らしいとしか言いようが無い展開に号泣してしまった。

ジョン・カーニー監督の前作「はじまりのうた」も素晴らしかったが、今作はより苦味の部分が付加されていてとても良かった。楽曲の素晴らしさは言うまでもないが、見終わっても何度も聞き返してしまうほどいい曲ばかり。音楽を題材にした映画でも素晴らしくよく出来た傑作だと思う。窒息してしまいそうになる現実は確かにあるが、音楽と君がいれば進んでいける。そんな傑作だった。
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