蛸

シング・ストリート 未来へのうたの蛸のレビュー・感想・評価

4.5
一目惚れした女の子に振り向いてもらうためにバンドを結成する。このフットワークの軽さ、痛々しさ、滑稽さこそが青春映画だと思う。若いからどんどん色んなものに影響されて…それは側から見たら馬鹿みたいかもしれないけれど間違いなくそこには青春の煌めきが存在する。
全体の繋がりは緩やかでとりとめのないエピソードの連なりのような印象もある映画だ(割と場面ごとにオチがあったりして)。そんな中で確かに劇的にとは言えないかもしれないけど、主人公は成長する。クライマックスのライブシーンは彼の妄想通りには行かないけれど、その歌声は確かに届くべき人に届いている。

青春映画なんだけどここには自意識を巡るウジウジとした葛藤はほとんど存在しない。風通しの良い爽やかな開かれた感覚(出会ったばかりの人ともすぐ仲良くなる)こそがこの映画に絶妙な軽妙さをもたらしている。主人公の兄貴の(主人公から見た)頼れるアニキ感は凄まじいけど、そんな兄貴にも彼なりに思うところがあるし、憧れの年上の女の子だって等身大に将来への不安なんかを抱えている。そのバランス感覚が素晴らしいのだ。

とにかく印象的な愛すべき登場人物たち!これはキャスティングの巧みさあってのことだと思う。バンドのメンバーのバランスとかも素晴らしい。というか全員可愛らしい。
音楽が、芸術が誕生する瞬間を描いているという意味で主人公とエイモンの作曲シーンはとてつもなく美しい。彼らの間にある精神的繋がりが画面から伝わって来る。

色んな登場人物がいる中で主人公とその兄の関係性が最も印象的だった。紋切り型のメンターで終わらない、兄の根底にあるものをキチンと描いているからこそラストの別れの場面は感動的だ。

本当に微笑ましくてキュートでステキな愛おしい映画だった。新しい青春映画の傑作。
蛸