ルサチマ

夜よりも深い闇のルサチマのレビュー・感想・評価

夜よりも深い闇(1946年製作の映画)
5.0
3回目

ルイスにおいて問題とされるのは、いかにして絶対に見つめ合うことのできない己を見つめるかという主題だ。他人の眼差しを通して己を見つめることと言ってもいい。

それは鏡や水面での反射によるものだけでなく、人相画によって繰り返し浮かび上がる問題だ。
女との愛の寄り添いが水辺や窓辺で繰り返され、他人の目に開かれるのはこの主題と関連し、ルイス映画の重要な殺人が浮かぶ時に過剰なほどの霧(今作ではやかんの湯気)が画面を包むのは、あらゆる他のきらめき(反射)から慎ましく身を隠す手段として存在する。クライマックスで画面手前に燃え盛る炎は霧の揺らめきをより過激に変容させたものとして室内空間に亀裂を入れる。

また、この映画において多重人格者である主人公が初めて登場する場面で個を特定させることのない足元をカメラが捉え、資金の受け渡しが顔へとカメラを振り向かせていることも見過ごしてはならない。

フィルムノワールの主人公にとっての金が一切貴重なものとして描かれず、金はあくまでカメラを引き寄せるための媒介にしかなり得ない存在という意味ではとても貴重な作品だと思う。
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