SANKOU

パターソンのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

パターソン(2016年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

街の名前と同名のパターソンというバスの運転手であり詩人でもある男の日常を描いた物語で、この作品自体が詩のような韻を踏んだリズムと美しさに彩られている。
月曜日から始まるパターソンの日常は、毎日ほぼ決まった時間に起きて出勤し、バスの運転をしながら乗客の会話に耳を傾け微笑む。帰宅して犬の散歩の途中に馴染みのバーに顔を出す。何気ない日常、ありふれた日常が繰り返されるが、一日として同じ日はなく、彼は日々想いを詩につづる。
何気ない話なのに、とても感動的に感じるのは、ジム・ジャームッシュ監督のアーティストとしての映像表現の美しさと、いとおしい登場人物たちにあると思う。
パターソンがこの世でかけがえのない存在として愛している妻ラウラは、前衛的なアーティストでもあり、決して家庭的な妻とはいえないところがある。
彼女の手によって奇抜な柄で彩られた家の内装、高価なギターを買って練習をし、思い立って市場で売る為のカップケーキを大量に作る。そして、夕食に聞いたことのないような風変わりなメニューを出す。
正直パターソン自身もとまどっている部分があって、心の底から妻の要求に答えているわけではない。
しかし、彼は絶対に彼女への不満は口にしない。なぜなら彼にとってラウラは太陽であり、彼女を失っては生きていけないから。
純粋な彼の想いは詩につづられる。彼らの仲睦まじい姿に焼きもちを焼いてか、色々な形で邪魔をするブルドッグのマーヴィンが面白い。
パターソンがマーヴィンを連れてバーに向かう途中に、柄の悪い連中に「ブルドッグは高級だから盗まれない(ワンジャック)ように気をつけな」と言われたばかりなのに、そのまま「ワンジャックされないようにな」と言いながらバーの前につないでおくシーンがおかしかった。
本当にパターソンはマーヴィンのことは好きではないのかもしれない。
彼ら以外にも毎回パターソンに日々の愚痴をこぼすバス会社の人間に、チェス好きで妻の金を持ち出したバーの主人に、毎度別れ話をしているカップルと登場人物の魅力が尽きない。
街中に双子の姿が多いのも気になった。そして、パターソンが出会う二人の詩人。長い髪の毛の女の子に、有名な詩人の出生地を見るためにやって来た謎の日本人。彼らと接する時の仲間を見つけたようなパターソンの表情がとても印象的だった。
マーヴィンによって一度は詩の創作を邪魔されてしまったが、再びノートを手にしてパターソンは詩を書き始める。
ベッドでのパターソンとラウラの向き合う形は変わっても、変わらない愛情に満ちた日々は続いていく。
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