実在のチン・チェソンの人生を描いた本作では、朝鮮の伝統的民族芸能である「パンソリ」」がモチーフになっている。
「パンソリ」は、歌い手が太鼓を打つ人の拍子に合わせ、歌や台詞、身振りを織り交ぜて物語を演じるもの。
映画の時代背景となっている朝鮮王朝末期では、「パンソリ」は男が演じるものとされ、女性が歌うことは厳しく禁じられていた。
幼い頃、辛い状況下にあったヒロイン・チェソンにとって「パンソリ」との出会いは、彼女を癒し、希望を与えるものだった。
だから彼女は、女性には固く門戸を閉ざしている「パンソリ」の世界に飛び込み、歌い手になることが生涯の夢、目標となる。
本作では、彼女が夢を叶えようと艱難辛苦の道のりを歩んでいく姿を、師匠や同門の仲間たちとの交流を通して波乱万丈に描いていく。
このチェソンを韓国のアイドルグループ「missA」のヴォーカルであるスジが演じているが、K-POPとは全く違う「パンソリ」を演じる為、彼女は1年に亘って発声練習したとのこと。
その独特の節回しや演じ方は、日本の浄瑠璃を彷彿させるものがある。
このヒロインの「パンソリ」への一途さの裏には、ある人への秘められた思いがある。
彼女のその思いを知れば知る程、終盤での展開を観ていると切なくなってしまう。
そして、映画の中で演じられる「パンソリ」のヒロインとチェソンの思いがオーバーラップして、よりドラマチックに作品を彩っていく。
朝鮮王朝時代末期の最後の煌びやかさの中、困難を乗り越えながら夢や一途な思いに真っ直ぐ突き進んでいく彼女の凛とした美しさが心に残ります。