YukiSano

ジェイソン・ボーンのYukiSanoのレビュー・感想・評価

ジェイソン・ボーン(2016年製作の映画)
2.9
作らなくて良かった続編。
この裏切られ感は、マン・オブ・スティールに近い。

ボーンシリーズに求める幾つかのツボを全て五ミリ程度ズラしてしまうと出来上がってしまう不完全燃焼感。レガシーよりマシだけど本家がこれなのは哀しすぎる。

やはり前シリーズは、ボーンの「自分とは何者なのか?」という魂の叫びが貫かれていたために、単なるスパイアクションジャンルを超えた所にある人間存在の探求にまで高められていたのが素晴らしかったと改めて実感した。

別に陰謀やら時事ネタはオプションであって、必要なのはボーンという孤独な魂の行方である。この作品はそれがなく、解決した問題の単なる焼直しになっている。

またシリーズを擦りきれるほど繰り返し観た者から言わせてもらうと、撮影監督が変わってしまったためにミリ単位のズレが気になる。あの前シリーズの神業みたいな撮影と編集は不快感スレスレで カタルシスに昇華する妙技が最高だったのに今回は単に見えにくいだけの荒いものだった。アカデミーまで撮った編集者クリストファーラウズは脚本も担当していて、どうやら客観的な視点を失ったらしい。

アクションシーンのがっかり感も凄まじく、全く燃えない。小道具の使い方や、逃れ方が雑。ギルロイがいなくなるとこうなのか?そこだけならレガシーの方がマシだった。

しかし1番ガッカリしたのはボーンがマリーとの誓いやニッキーの想いを蔑ろにして私憤に走ってしまってるように見えること。ボーンが今までヒーローであったのは、例え自分が傷ついてでも自分の憎しみを押さえ、他者を助け人情と仁義を重んじることにあった。そこの根本的解釈を本家が間違っていることに心底ガッカリ。

ただしアリシア・ヴィキャンデルだけは良い。今、旬の女優のオーラで五番煎じの本作に光を与えてくれている。

それでも本家スタッフとキャストが映画史に残る三部作全部面白いという奇跡の傑作シリーズに、ついに泥を塗ったことに深い失望と哀しみしか残っていない。

いつかロッキーみたいに6作目とか7作目で魂を取り戻し、面白さが復活すると信じたい。ただし、ターミネーターと同じで長いシリーズには向かないフランチャイズだと今回証明したけど。



要するに本作は、以前のシリーズがゴッドファーザーなどにも通じる神話的普遍性を持った偉大なトリロジーだったが、それが単なるジャンルものの普通のスパイアクションにまで堕ちてしまったことを痛感させてくれる結果となった。

ボーンは悪は暴くけど、復讐はしないってマリーに誓ったはずじゃないか…

自分にとってのボーンシリーズの最大の魅力は、過酷な現実の中で確固たるヒューマニズムを持ってボーンが行動する所にあった。微かな光を確かな希望にしようとボーンが最後に起こす行動に感動してたのだ。

それを忘れてしまった、この作品は自分にとってボーンシリーズとして認められない…
YukiSano

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