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アナイアレイション -全滅領域-のEikeのレビュー・感想・評価

3.7
2015年のベストSFとの呼び声も高かった「エクスマキナ」で監督デビューを果たしたアレックス・ガーランド、注目の第2作。

宇宙から飛来した小隕石が米国の東海岸に落下。その地点を中心に異常な空間が出現します。
3年後、その一帯は”The Shimmer=「ゆらめき」”と呼ばれる異様な環境地帯と化し、政府と軍によって厳重な隔離措置が取られます。
問題は、時間の経過とともにShimmerが拡大を始めたこと。

軍出身の生物学者リーナ(N・ポートマン)は他の4名の女性メンバーと共にShimmerに足を踏み入れることに。
それはShimmerに送り込まれた後、消息を絶っていた軍人の夫がただ一人帰還するも原因不明の昏睡状態に陥ったため。
リーナ博士は彼の身に何が起きたのかを探り、その治療方法を求めて危険なミッションに加わるのですが…。
Shimmerの内部は通常の機器類は機能せず、外部とのコンタクトも取れません。
先に進む一行は次第に時間の感覚すら狂い始めます。
それでもリーダーを務める心理学者ベントレス博士(J・J・リー)に率いられてShimmerの発生源である海岸沿いの灯台を目指すのですが…。

…面白い。
ある種ハードSFとも言える内容ながら、描写としてはかなりジャンル系の色が濃く、その意味でエンタメ度はかなり高い(つまりお高く留まったSF映画にはなっていないということです)。
ガーランド監督の手腕としてこのジャンルミックスの手際の巧さがある訳ですが、AIテーマのSFでありつつも心理サスペンスとして着地させて見せたエクスマキナの出来がまぐれではなかったことは本作を見ると明らかでしょう。
本作はある種の「探検もの」のフォーマットを踏襲していることもあってエクスマキナほどの閉塞感は無く、世界観はかなり大きくなっております。
その分、登場人物の数や彼らの交流を描くにも配慮が必要となる訳ですが、ガーランド氏は実力派の脚本家でもある訳で、目配りは十分に感じられました。
ヒロインであるリーナの行動の動機が死線を彷徨う夫への愛といった見かけほど単純ではない点を含め、他のメンバー各位が抱える心の傷や葛藤もそこはかとなく匂わせるあたりは役者の演技を引き出す要因となっておりドラマとしての深味にもつながっております。

単なるアドベンチャーSFではなく心理描写に重心を置いている点でポートマン嬢の起用は効果を上げておりますし、こちらも演技派のJ・J・リー女史のニュアンスに富んだ演技にも見応えがあります。
それでいてモンスターSFとも思えるホラー的な描写も思いのほか豊富で、ちゃんと「怖い」作品にもなっているのが嬉しい。
SF=未知なるもの=恐怖という関係性が描かれているのも嬉しいところ。
CG要素も多用されていますが過剰にビジュアルに頼ってないあたりはアメコミ作品が蔓延する中にあって新鮮な印象もあります。
こうした「真面目なアプローチ」のジャンル系の作品がポツポツと増えて来たのは誠に嬉しい限りであります。

本作への評価(と言うか好き嫌い)は結末の付け方によると思われますが、ある種オープンなエンディングは不満が残りそうなものですが本作に関してはそれも「SFらしさ」として許容範囲だと感じましたし、観客の判断に委ねるようなアプローチもSF映画の醍醐味とも思える物でありました。

ガーランド監督、本作の後はストリーミング用ドラマとして8話からなる”Devs”が公開(これも面白かったです)。2022年中には撮影が完了している新作”Men”が、そしてその後は”Civil War”なる作品に取り掛かる模様。すっかり売れっ子ですね。
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