てんあお

婚約者たちのてんあおのレビュー・感想・評価

婚約者たち(1963年製作の映画)
4.6
今年の個人的映画体験の上で、非常に大きな出来事。エルマンノ・オルミという映画監督との出逢い。自分の不勉強と関心の不発がもとで、近作の『緑はよみがえる』や『木靴の樹』よりも先に、この『婚約者たち』を鑑賞できたことが、ある意味幸運だったとおもう。昨今の甘々な恋愛ものにはない苦味を、映像をみせる編集のリズムを、観光とドラマを混在させて見せようとする態度を。あるいはイタリア及びシチリアという土地とその歴史と、(時間の隔たりを想像力で補完する行為をもって)映画を通じてかかわり合う、その事に対する関心を与えて呼び覚ましてくれた。

恋愛から家庭を儲ける道のりで、経済的に抱える不安と乗り越えるべき問題の有りようが、現代の自分と当時の彼らを近づける。もう既に失われてしまったかもしれない、アザミの咲き乱れるミラノの川縁や、塩田の広がるパレルモ郊外の風景は決して身近ではないけれど。共感と普遍性というものについて学ぶ切欠としても、良い出来事かもしれない。アナ・カンジの愛嬌に満ちた横顔を思い浮かべるように、作品の場面場面を思い返す歓び。
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