足拭き猫

青春残酷物語の足拭き猫のレビュー・感想・評価

青春残酷物語(1960年製作の映画)
4.0
赤ひげ医者の部屋の壁に共産党のスローガンが貼ってある。戦争が終わって民主主義の世の中になり、社会が良くなると思って行動したけれども結局何も変えられなかったという大人たちの悔恨が度々語られる。60年代のはじめにすでに社会への諦めが描かれているとは。

真琴と清は社会問題よりも自分の内面の葛藤からお互いを傷つけ合う。行き場のない怒りは大人へのあざけりと不誠実さとして外へぶつけられる。姉は妹について若い時の自分を見ているようだと話す。振り返ってみると大人たちがやってきたことと、今若者たちが行っていることは何ら変わらないのだ。

強い光と影で対峙する2人を浮かび上がらせるシーンは力が火花を散らし合うようで緊迫。清は未熟さを憎むかのように青いリンゴを嚙み砕き、自分の子供を身ごもった真琴の顎は赤いリンゴで支えられる。

お互い心が通じ合う幸せを信じられそうな場面から、彼らは一瞬で死に至る、むちゃくちゃ厭世的な作品。

私の好きな木場が出てきてそれだけで興奮モノなのだが、そこを走り飛び跳ね寝転ぶシーンは物理的に痛そうだった。人の良いおじさまというのとは全く違うイメージの若い川津祐介が大変な美男子。