Osamu

息の跡のOsamuのレビュー・感想・評価

息の跡(2015年製作の映画)
4.4
ちょうど1年振りに観た。
やはり帰り道で泣きそうになった。

何週間か前に小森監督と相棒の瀬尾夏美さんのトークショーで「これは佐藤さんの秘密を撮った映画だ」ということを瀬尾さんが言っていた。

同じ被災者でもそれぞれ感じたり思ったりすることは異なる。同じことに対してであってもだ。自分の気持ちをうっかり口にしてしまうと、違う気持ちの誰かを傷つけてしまうことがある。佐藤さんはそれを知っているから自分の気持ちを被災者の仲間には秘密にしている。

その秘密を他所から来た監督に打ち明けてくれたのだ、と。

悲しい秘密を隠して生きるたくさんの人たちのことを想うと、どうにも涙が堪え切れなくなった。

今回の全国上映に際して再編集がされていて、1年前に観たバージョンには無かったシーンもあった。時系列も入れ替わっている。前述のトークショーで小森監督は「佐藤さんの生活もあの時と変わっている。被災地の環境も変わっている。この映画は一度完成したら、ずっとそのままでいいのか」と言っていた。どこまで誠実な作家なんだろう。

同じ作品が何度も再編集されバージョンを変えて何度も再上映される。ドキュメンタリー映画の新しい形かもしれない。

(以下、2016年3月10日の感想)

丸5年の3.11の前日に一夜限りの特別上映に行って来ました。

岩手県陸前高田市でタネ屋さんを営む佐藤さんのドキュメンタリー。

この佐藤さん、震災の手記を英語と中国語で自費出版しているんです。語学が堪能ってわけでもなく、どちらかというと苦手みたいなんですけど。なぜ日本語ではないのでしょうか…。

バイタリティ全開の佐藤さんがカメラを持つ監督に向かっていろんなことを話してくれます。

監督の小森はるかさんは若い女性なのですが、2人の「俺が言ってること分かるか?」「あ、はい」「おう、分かるのか」なんてやりとりは、子どもとオモロイ親戚のおっちゃんとの会話みたいです。

そして、監督の受け応えが少しずつ変化していくのが分かります。そこがおもしろいです。

あ、そうなんです、この作品は、監督が岩手に移り住んで、2年という長い時間をかけて撮り続けた佐藤さんの日常を編集したものなのです。

上映後のトークショーで監督はおっしゃっていました。「佐藤さんを特別な人として表現したくなかった」と。

僕は特別な人を観るつもりで劇場に足を運んでしまいました。でも、違いました。強く見える佐藤さんも迷って悩んで行ったり来たりしているのです。

そんな佐藤さんを思い、後から感情の波がやって来ました。帰り道、駅の雑踏の中で号泣寸前で堪えました。

この監督の作品をもっと観てみたいです。止むに止まれぬ衝動で誠実に作品を作っている、ということがトークショーでの受け応えに表れていました。この作品の全国での上映を切望します。

明日3月11日から14日まで開催の『3.11映画祭』にて、福島のギャラリー・オフグリッドで上映されます。3月12日土曜日です。お近くの方は是非。また、同じ映画祭で小森さんと相棒・尾瀬夏実さんとの共同作品『波のした、土のうえ』も上映されます。こちらは福島(12日)の他に、東京・外神田のアーツ千代田3331にて3月14日月曜日上映です。
http://311movie.wawa.or.jp
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