Osamu

スープとイデオロギーのOsamuのレビュー・感想・評価

スープとイデオロギー(2021年製作の映画)
4.0
受け継ぐことに関するドキュメンタリーだ。

自身のオモニ(母)を撮る監督自身も登場する構造。撮り手の立ち位置がカメラの前後を行き来する。

監督のヤンヨンヒの両親は、大阪で朝鮮総連の活動家として活躍し、帰還事業で息子3人を北朝鮮に送った。ヨンヒは民族教育に白けながら朝鮮学校で優等生を演じた。北朝鮮へ行った兄を題材に映画『かぞくのくに』を撮り、北朝鮮から入国禁止を通告されている。

明らかにイデオロギーは親から受け継いでいない。しかし、済州6・4事件での体験や兄たちを北に送ったことに関するオモニの隠した思いを引き出し、そこから何かを受け継ごうとしているのように見える。

鶏肉スープのレシピは受け継いだ。イデオロギーは相容れなくとも、スープのレシピを共有できる関係は成立するのだ。

監督は知りたいことをオモニからなかなか引き出せない。そのやり取りを観て、オモニの秘密に想いを寄せることが、このドキュメンタリーを観る醍醐味だ。
Osamu

Osamu