JAmmyWAng

美しい星のJAmmyWAngのレビュー・感想・評価

美しい星(2017年製作の映画)
4.0
「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」を表現としてやり切るその姿勢に、虚構の意義が詰め込まれているようで思い返すと泣けてくる。

これが「お前ん中」における妄想なのか、客観的世界における現実なのかというシュールな揺らぎが、マルチ商法における信仰/欺瞞の切実な揺らぎによって悲しくも増幅されていくという構成も巧みでかなりSUKI。

このようにして人生が肯定されて生きていけるのならば、それを否定する事は自分には決して出来ないと思うワケで、こうした希望のための妄想はある意味でそれ自体を人間の「意志」と捉えてもいいのかもしれない。

ショーペンハウエル君を引用すれば、〈意志は、純粋にそれ自体として見れば、認識を欠いていて、盲目的で、抑制不可能な単なる衝動にすぎない〉のだけれど、〈その意志が意欲しているものは、つねに生命であって、生命とはまさしく表象に対するこの意欲の表現以外のなにものでもないのであるから、われわれが端的に「意志」という代わりに「生きんとする意志」というとしても、それは同じこと〉であると。

つまりは妄想や虚構だって「盲目的な生きる意志」なのかもしれず、それらの現実における客観的な揺らぎを呈示した上で、それでも包括的な肯定を繰り広げるラストはまさに〈われわれが生きんとする意志に満たされている限りは、たとえ死を目の当たりに見るとしてもわれわれの生存に不安を覚える必要はないだろう〉という事ではないでしょうか。

もう一つ声を大にして言いたい事は、今作はどう考えても佐々木蔵之介のベスト・アクトだろうと思うのです。

その表情が持つ若干の大仰性、浮き世離れ感によるKURANOSUKE的佇まいがこんなにも役柄に合致している有り様は最早奇跡に等しいと思う次第で、KURANOSUKEの映っているシーンは全て好きですし、蔵之介もとうとう自分がKURANOSUKEであるという真実に気が付いたんじゃないかなあって。
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