あゆみ

海は燃えている イタリア最南端の小さな島のあゆみのレビュー・感想・評価

4.5
よく撮れたなと感嘆するシーン多数。重圧で心が押し潰されそうな二時間だった。
死体が山のように積み重なる船倉や、救助された移民が目薬を血の涙のように流すカットなど。
夜明けとともに、ヘリの格納庫が開いていく場面の美しさも。黒々とした夜の海の中を差す孤独な光も。
常にフィックスかゆっくりすぎるパーンで撮られていて、淡々と、だけど強烈な映像の数々に、茫然と魅せられた。

救助された黒人男性が歌うように語った。その独白のような、「生」を叫ぶようなラップを、息を止めて全身で聞いた。
紛争で多くの仲間が死んだ。殺され、犯された。安全に暮らすことができなくなったから、祖国を捨てた。命からがら逃げ出し、砂漠を渡った。水もない。途中で多くの仲間が死んだ。
リビアに着くと収監された。リビアの監獄はひどい場所だった。常に暴力を受け、水も食事もなかった。3年収監された仲間がたくさんいた。6年収監された仲間がたくさんいた。耐え続け、監獄を命がけで逃げ出した。一か八かの賭けにでて、海をわたることにした。多くの船が沈み、多くの仲間が死んだ。海は人間が渡る場所じゃない。人間なんかに渡れるようなものじゃない。でも俺たちは、一週間海を渡り、たまたま幸運にもイタリア最南端の島まで辿り着いた。
俺は生きている。生きている。生きている。


救助された移民たちが小さなスペースでサッカーをしているシーンで涙が出そうだった。皆、「シリア!シリア!」などと、ワールドカップのような雰囲気で母国の名前を叫び応援する。
逃げ出した先の国で、祖国の名前を叫ぶ。こんなにも理不尽で悲しいことがあっていいのか。好きで国を捨てる人なんてどこにもいない。

泣きたかったけど、泣いてはいけないと思った。涙で、悔しさを晴らしてはいけないと思った。
何もかもはできないけど、何だったらできるのか、向き合いたい。
あゆみ

あゆみ