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河内カルメンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

河内カルメン(1966年製作の映画)
4.3
 まだまだ整備されず、デコボコの山道を自転車で走る女のすらりと伸びた脚はひときわ綺麗で目を引く。加えて彼女の口には、一輪のバラがくわえられていた。河内のドン百姓勇造(日野道夫)の娘の露子(野川由美子)は、美しく豊かな肉体でいつもこうして河内の村中の男たちの羨望の的だった。中でもはけ工場の息子で大学生のボン(和田浩治)は露子に夢中で、幼馴染の露子もまたボンに強く魅かれている。デコボコの歩道を仲良く2人乗りで帰る露子とボンの姿に嫉妬した若者たちは村祭の夜、秘かに近付いて露子を犯すのだ。女優デビュー作となった『肉体の門』から『春婦伝』を経て、野川由美子はここでも望まないSEXを強いられる。加えて母のきく(宮城千賀子)が不動院の良厳坊(桑山正一)と関係するのを見た露子は、家出同然に大阪にとび出した。大阪に出た露子は同級生雪江(松尾嘉代)の世話でバーに勤めた。鼻の下を伸ばす沢山の男の中で、露子と同じ故郷だという勘造(佐野浅夫)は露子に惣れこみ、来る日も来る日も彼女のことを待ち続けた(今でいうストーカーの走りか?)。やがて勤めていた信用金庫をはした金の横領で首になると、不憫に想った露子の家で同居生活を始めるのだ。

 『肉体の門』や『春婦伝』のヒロインが戦争に引き裂かれ、ここでしか生きられないある種の幽閉生活を生きたのに対し、今作のヒロインはどんな深刻な事態になろうとも決して挫けたり、将来を悲観したりせずに、軽やかに生きる。それは今東光の原作のイメージもあるが、60年代半ばの女性たちの自立とも無縁ではない。様々な男性遍歴を積み重ねながらも露子は、それまでの日本映画のような耐える女のイメージを持たず、積極的に物事を打開しようとする。清順映画を代表する男・野呂圭介が力づくでモノにした女の操を一度は初老の男が小さな部屋に押し込める。ここでは男が外で女が家を守るという昭和的な男女関係が見事に反転しているのも見逃せないのだが、場末のクラブ(名前はダダ!!)に収まるはずのなかった露子はボンと、まるで草食系男子を先取りしたかのような高野誠二(川地民夫)に同時に愛され、女盛りを謳歌するものの、またしてもヒロインの身体を踏み躙る不埒な輩が現れる。まるでセットのように住居を真っ二つにした鹿島洋子(楠侑子)の家、初恋の人・彰と暮らした粗末なあばら家、そして愛欲の果てにブルー・フィルムへと身を落とした忍者との襖ばりの部屋。美術:木村威夫と撮影:峰重義と設計した空間造形の妙は円熟の域に達する。まさに清順黄金期の充実した1本である。
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