Yoshishun

透明人間のYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

透明人間(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

リー・ワネル監督の前作『アップグレード』も、いつか起こり得る近未来を描いていた。人工知能には救われるだけでなく、時に脅威となる。それは『ターミネーター』といった往年の名作でも描かれ続けたものだ。

そして、次にワネル監督が選んだ題材は本作のタイトルにもある『透明人間』だ。元々ダーク・ユニバースの2作目であり、ジョニー・デップ主演の予定だったが、第一作の『ザ・マミー』の興行的失敗を受けて企画は頓挫。ヒットメーカー、ジェイソン・ブラムと『ソウ』シリーズでお馴染みのリー・ワネルの最強タッグにより、本来娯楽作品であるはずの透明人間が現代スリラーに大きくアップグレードされた。

驚くべきは、本作の制作費。観賞後には、700万ドル(約7億円)という制作費であったのが嘘のように思える。確かに透明人間の表現として、全く何も特殊効果無しに描こうと思えば描けるかもしれない。本来手抜きに思える映像表現ながら、本作ではその画面構成がかなり面白い。意味ありげに部屋の特に何てことない場所を映し続けたりする。しかし観客にはこれが透明人間の映画であるという事前知識のみで、何か映ってるのではないかという錯覚に陥る。極めて古典的な手法ながら、本作ではその演出によって、スリラーとして申し分ない完成度になっている。

また反社会的(ソシオパス)に扱われる女性主人公の、孤独になりながらも成長していくストーリーも良い。ラストは賛否両論なのも頷けるが、全ての元凶であるエイドリアンに支配され続けた彼女の反撃としては申し分なく、常に何かに怯えていたはずが、逆手に取るのが鮮やかだった。

700万ドルという低予算のため、肝心の透明人間のCGはB級映画のクオリティとなんら変わらず、むしろ透明じゃないときはあまり魅力的なデザインとは言い切れなかった。

しかしながら、リー・ワネル監督の手腕は確かなものであることは間違いない。メジャー作品には珍しい、脅威のワンカット(恐らく本作1番の見せ場)は素晴らしい。また音響も映画館向きなので、是非とも映画館で鑑賞していただきたい。
Yoshishun

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