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愚行録のslowbird2000のレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
3.6
石川慶監督の初長篇映画『愚行録』WOWOW録画初見。

こちらは満員バスのシーンから始まるが、その映像がまた凄い。ただのそこらにあるバスの乗客をとらえただけの映像なのに、しっとりとしてそして不安をたたえて、映画全体を象徴するような出だしで見事な切れ味。

『蜜蜂と遠雷』同様に映像の黒色の深みがまず素晴らしい。今回は満島ひかりの就寝シーンに代表される、濃い緑に墨汁を流し込んだような黒が一番印象に残る映像だった。

そしてまたしても音の繊細な描写。細かな音を明敏にとらえた画面からは、観客に神経を研ぎ澄ましてこの映画に向き合えとメッセージされているような気持ちが湧いてきた。

物語は、ある一家殺人事件を追う週刊誌ルポライターがたどるその一家を巡る過去の人間関係を描いているのだけれど、それが正にドス黒い。現代的な格差(本篇では階級社会と登場人物に言わせている)の極北を描いたような映画なのだけれど、時に象徴的な映像で描かれたそれは、ラストまで一滴一滴と、どすんとした重い痼りを観客に残して終幕する。

この手のトラウマ的な家族の因縁を描く映画は、最近の日本映画では数あるけれど、その中でも主人公兄弟の描写で、最高峰かもしれない。いやぁ、ずしんと来ました。
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