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彼らが本気で編むときは、のmanamiのレビュー・感想・評価

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
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「説明(のための)台詞が多い」というのが、邦画の悪い点として挙げられることがよくある。確かに作品によってはそう感じるものもある。
この作品の登場人物も皆かなり饒舌だが、ただし今作ではそれを好意的に受け止めることができる。「セリフを言っている」のではなく、みんながみんな誰かに、時には自分自身に、想いを伝えようとしている。そのための言葉たちだからだろう。
賑やかな会話、厳かな会話、豊かな会話。会話の中の対話、突き刺し合うような対話、糸にのせた愛情がとどまるところをしらない対話。一方通行の、対話にならない対話も。
ずっと誰かしらが喋っているような中、訪れる静けさが際立つ。おにぎりとか、編み物とか。
そして話していても黙っていても、特に引き込まれるのはやはり生田斗真演じるリンコさん。ただ立っているだけのシーンでも、完全にリンコさん。凄いねぇ。
LGBTQやネグレクトの他、イジメや認知症、カイの選んだ方法など、扱っている題材は刺激的だが、センセーショナルにしすぎないように見せている印象。
「彼女」が病院で過ごす一晩や、カイがリンコさんに引きあわされ打ち解けていく過程、トモの母親が戻って来た日の夕飯など、涙を誘う場面にもなりそうな時間が描かれない。リンコさんがトモに「してはいけない」と諭したことをどこかの伏線とすることもできだろうが、そうはしない。
リンコさんの佇まいのように、静かに静かに。話を編み上げていく。
泣かせる感動作を撮りたいのでなく、彼らが過ごす「本気の」時間を見せたいからこそだろう。

73
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