ふうこ

彼らが本気で編むときは、のふうこのネタバレレビュー・内容・結末

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

泣いて、泣いて、泣きました。
悔しくて、かなしくて、腹が立って、嬉しくて、切なくて、愛おしくて、あったかくて、涙が出ました。始まりから終わりまで、あちらこちらのシーンで、いろんな感情が湧き出て泣きました。

「初めてリンコさんを見たとき、あまりに綺麗で、涙が出た」
「リンコさんのような心の女性を好きになると、後のことはもうどうでもよくなるんだ」
マキオの真っ直ぐな言葉が、良いなぁ。こんなに真っ直ぐ心から惚れられる…なんて素敵なんだろう。マキオ目線での「初めて会った時のリンコさん」はたしかにとっても美しくて、その光溢れる画に、涙が出ました。

感情を、心を、ぐわんぐわんと揺さぶられまくりの127分。その中には、無意識に拳を固く握り締めていたシーンもいくつか。
たしかにリンコとマキオとトモの生活は優しく温かく、思わず微笑んでしまう「ほっこりした」ものなのだけれど、総じての印象としては、決して「ほっこり」ではありません。辛いシーンの方が多くて、でもこの痛みなんて、当人たちの感じている悔しさや悲しさの10分の1にもならないんだろうな…と気が遠くなりました。

一つ残念だったのは、本作における「理解ある人々=リンコの“身内”」、「理解ない人々=少なくとも並以上の差別・偏見の持ち主」という図式。
言ってみれば「理解ない人々」や「理不尽な仕打ち」の描き方があまりに“典型的”で、ほんの僅かな違和感を感じました。
現実でトランスジェンダーの方は、もっとこう、「“際立った差別・偏見のない人たち”からの、悪意ない些細な言動」に苦しめられることだってあるだろうし、反対に、時には「大して親しくもない誰か」の言動一つで、救われることだってあるかもしれない。

差別・偏見は、「考えることを止めてしまえば誰の心にだって棲みついてしまう」という点でこそ、恐ろしいのだと思います。「理解ない人々=少なくとも並以上の差別・偏見の持ち主」という図式だと、気づかぬうちに私だって誰かを傷つけているかもしれない…と我が身を振り返る隙が与えられないのではないかな、、と漠然と感じました。上手く言えないのだけれど。
差別や偏見は、きっと、限られた人たちの持つ思想なんかじゃ決してない。もっと複雑で、根深く、人間であれば誰だって、自分自身も持ち得るもの。だからこそ、考えることを止めてはいけないはずだと思いました。

なんだか批判のようだけれど、そうではなく、改めて「考える」キッカケをくれた作品でした。
何より、あんなにも観ている側の感情を揺さぶることができる作品は、それだけで物凄いと思います。心に訴えかけてこそ、頭で考える機会を作ることができるはずです。

全編を通して、強くしなやかに美しく生きるリンコさんと、おおらかに穏やかに彼女とトモを包み込むマキオがまぶしく、とても素敵でした。
ふうこ

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