こたつむり

エル ELLEのこたつむりのレビュー・感想・評価

エル ELLE(2016年製作の映画)
3.7
円熟した渋みが漂う人間ドラマ。

あー。これは配給会社の担当者も、キャッチコピーを付けるのに悩んだことでしょうな。

―犯人よりも危険なのは“彼女”だった―。

まあ、文章だけで判断したら間違いではないのですが…どうしても『氷の微笑』を想起させよう、という意図を感じますね。

でも、本作の場合。
サスペンスは香り付けに過ぎず、主眼は主人公である《ミシェル》の“人生の一断面”を切り取ること。だから、サスペンス的な起承転結を期待すると肩が下がると思います。

何しろ、人生というものは。
どこが始まりで、どこが終わりなのか。それすらも曖昧な“断面の集合体”。生きていれば明日は来ますし、誰にだって語ることのない昨日があるのです。

しかも、登場人物たちの平均年齢は高め。
実際に《ミシェル》を演じたイザベル・ユペールは今年で64歳ですからね。存在だけで“歴史”を感じさせるからこそ、そこに観客は様々な想像を託すことが出来るのです。だから、観客側の対象年齢も高めを狙っていると思いました。多くの過去を積み重ねているから響く…そんな作品なのです。

それにヴァーホーベン監督も。
今年で79歳ですからね。ご自身の目線で描けば、対象年齢が上がるのも当然なのでしょう。それにしても、監督さんは“攻めの姿勢”を崩しませんね。このまま人生最後まで挑戦し続けるのでしょうか…いやぁ、格好良いですね。

ただ、その攻めの姿勢は。
舞台がフランスだから、フランス人の“価値観”で描かれているのですね。なので、何処でも彼処でも“チュッチュ”どころか“シュッシュッ”とか“モニョモニョ”とか“バーン!ドーン!ウッ”とか大忙しなのです。皆さん、好きですなあ。正直なところ、胸焼け気味。お腹いっぱいですよ。

まあ、そんなわけで。
底が見えない湖のように暗い物語なのに、爽快な部分も持ち合わせる複雑な作品でした。特に《ミシェル》の過去を想像するだけで、色々と考えさせられるものがありますからね。そんな気持ちで鑑賞すれば…楽しめると思います。

最後に余談ですが。
本作には“ネコちゃん”が出てくるのですが、きちんと演技させていたことに驚きました。また、その他にも細かい部分まで配慮している場面が多かったですね。この辺りは細部に拘る監督さんならでは。“変態”だけがウリじゃないのですよ。
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