れじみ

オクジャ okjaのれじみのレビュー・感想・評価

オクジャ okja(2017年製作の映画)
4.2
遺伝子操作によって生み出された巨大な豚オクジャと少女の交流・冒険を描くアドベンチャードラマ。

本日、6月29日よりNetflix限定で配信がスタートされ、製作に入っているのはブラッド・ピットが代表を務めるプランBエンターテインメント。
プランBは今年のアカデミー賞で「ムーンライト」を世に送り出したが、その後すぐに柔軟に方向性を変え、ブラッド・ピット自らが主演を務める「ウォー・マシーン:戦争は話術だ!」をNetflixで配信、そして今回は韓国が誇る鬼才ポン・ジュノを監督に据え、リリー・コリンズ、ポール・ダノ、ジェイク・ギレンホールと言った才能溢れる若手を集め、あまりにも見事な作品を生み出してしまった。
製作における一から十まで全ての功績がプランBにあるわけではもちろんないだろうが、それにしてもこのフットワークの軽さには驚かざるを得ない。
今後はデヴィッド・フィンチャーを招聘した「ワールド・ウォーZ」の続編も予定されていて、ますますプランBの動向から目が離せなくなりそうだ。

物語冒頭、軽快な音楽とスタイリッシュな映像の中で、ティルダ・スウィントン演じるミランド社のCEOルーシー・ミランドによって語られるあるプロジェクト。
奇跡的に生まれた特殊な豚、それを世界各地の農家に与え、10年後、最も優秀に育て上げた農家を表彰し、それが同時に世界の食糧不足を解消すると記者に向けて説明するミランド。
ますます人外じみてきたティルダ・スウィントンの軽薄な口調で語られるこのオープニングは、今後起きるであろう展開を端的に示唆しており、観客の興味を惹きつけることに成功している。

物語はそこから10年の時が流れ、カメラは韓国に与えられた豚オクジャと農家の少女ミジャの姿を捉える。
このシーンは、ポン・ジュノ監督の代表作「グエムル -漢江の怪物-」での怪物と少女のファーストコンタクトと全く同じ構図で撮影されているが、ミジャとオクジャの関係性はそれとは全く異なるものである。
韓国の山奥で、仲睦まじく互いを信頼し合って生活しているミジャとオクジャ。
ファンタジックな映像の中でのミジャとオクジャの交流の様子は牧歌的であり、実に微笑ましい。
心優しいミジャに育てられたオクジャの澄んだ瞳が印象的である。

やがてミランド社のプロジェクトによって引き裂かれることになるミジャとオクジャであるが、オクジャを取り戻すために単身ソウルの支社へと乗り込むミジャの姿を捉えたアクションシークエンスはあまりにも素晴らしい。
流れる音楽の効果も相まって、コミカルな調子で語られるソウルでの冒険劇は本作の大きな見所である。

序盤では少女と巨大な豚との交流、中盤では少女の冒険劇を描いているが、終盤では強烈な社会風刺が描かれている。
聡明ではあるが世間知らずな少女の目を通して描かれる残酷な社会のシステム。
そう、本作で提示されているテーマは、すでに当然のように社会に組み込まれているシステムなのである。
家畜を育て、屠畜場へと出荷され、そこで精肉となって、消費者の手に渡る。
動物の肉を食べて生きている以上、このシステムを真っ向から批判することなど誰にも出来ない。
精肉の生産ルートに関わっている人々もまた仕事として行っているに過ぎず、批判を受けるべき立場ではない。
ポン・ジュノが提示するこの強烈なテーマに、明らかに人類は答えを持ち合わせていないが、ミジャとオクジャを通して突き付けられる非常な現実に胸を締め付けられる。
あれだけ澄んでいたはずのオクジャの瞳が、悪意のある人間に関わってしまった事で、血走った瞳へと変化していく演出は印象的であった。

韓国映画らしい相変わらずの謎のノリには戸惑ってしまうし、若干グダっている場面もあるにはあるが、それもご愛嬌と言ったところか。
ミジャとオクジャのパワフルな存在感は全編通して健在であるし、動物解放団体のメンバーを演じたポール・ダノ、リリー・コリンズらも印象に残る。
その中でも動物学者を演じたジェイク・ギレンホールのやりたい放題っぷりは凄まじい(笑)
彼は「ナイトクローラー」や本作のような頭のネジがぶっ飛んでるようなキャラクターを演じている時の方が輝いているように思う。

オクジャの魅力的なキャラクターデザイン、ガールミーツクリーチャーの普遍的な物語でありながら風刺を織り交ぜオンリーワンへと昇華していくアイデア、個性的な役者の演技、魅力的な映像・音楽、全てが上手く組み合わさった文句なしの傑作である。
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