持て余す

オクジャ okjaの持て余すのレビュー・感想・評価

オクジャ okja(2017年製作の映画)
4.3
いまをときめくポン・ジュノ監督。やっぱりすごいね。

個人的な話ですが、かなり前の印象を引きずっていて、最近までは韓国映画を少し敬遠していました。そのかなり前の頃は今ほど作品に多様な感じもなく、サスペンス作品にしても伏線の貼り方が甘くて雰囲気だけのものという印象があった。そしてなにより、登場人物(特に男性)が同じような髪型ばかりで見分けにくく、没入しづらかった。

なので、2000年代に入ってから世界に名を轟かせる韓国映画の隆盛には少し出遅れてしまった。まったく見ないわけではないけれど、後回しにしがちという接し方をしていたので、評価の高い未見の作品が幾つも溜まっている。裏を返せば良作をこれから見られるということで楽しみ。

さて、この『オクジャ』だけれども、設定の段階で唸らされる。Netflixで世界配信が前提だったからというのもあるだろうけれど、韓国と世界との舞台上の距離感が絶妙。

これは日本を舞台にした物語(映画でも漫画でも小説でも)で感じることが多いのだけど、世界規模ですごい事件の中心地が日本であることが不自然なことがある。例えば、「一隻しか来ていない宇宙船が日本に」「未知の病原体(ゾンビ含む)が日本で」「前人未到の記録を作る日本人アスリート」──挙げればキリがないけれど、こういうのは正直リアルじゃない。

作品ごとにその釈明がされていたりもするけれど、結局のところ作者が日本人だからっていうだけのことが殆ど。仕方のないことだけど、フィクションがグローバルに発信されるのが当たり前になりつつある昨今、今後もずっとそのやり口でいくのは難しくなっていくような気がする。

『オクジャ』はこの辺りをとても上手に処理できている。スーパーピッグは「アメリカの世界的企業が世界の畜産家に任せて飼育してみる」というデモンストレーションの許に韓国の謎の山奥にいるという設定は、虚構なりに自然。

よく考えられた設定という強固な土台があれば、多少の大風呂敷を拡げても安心して見られるという見本。オクジャとミジャの大冒険──特にミジャのアクションシーンが凄まじい。ガラスを突き破ったり、トラックを追いかけたり、ジャッキー映画ばりに身体を張っている。

この監督は『グエムル』のときにも少女に派手なアクションをさせていたし、過酷な状況に翻弄される少女がシンプルに好きなのだろうな。偏った性癖めいたものがある監督の映画って、強いこだわりと愛情があってとても信頼できる。

それから、薄っぺらな勧善懲悪じゃないのもいい。単純にオクジャを助けたいミジャと、食肉業者のミランド姉妹、狂った動物愛護団体が、それぞれのエゴでオクジャに関わる。食肉業者を極悪人に仕立てることは簡単だし、動物愛護団体をもっときれいに描くことだってできるのに、その嘘は排除されている。

オチがやや軽いのは難だけれど、あの金の豚がもっと高価で貴重なものに見えれば、効果的だったと思う。オクジャを買い取ったなどと嘘をつき続けてきたおじいちゃんが、言い訳がましくくれたものという前提あったので、クライマックスで差し出された時の刺さりが少し甘い。この辺りのカタルシスがもっと強ければもっと大傑作になったんじゃないかと思う。

それにしてもスーパーピッグは美味しくなさそう。
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