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マンチェスター・バイ・ザ・シーのkrhのレビュー・感想・評価

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ラストに波の音が響く中で静かに押し寄せる不思議な感情があった。悲しみとも喜びともつかない、辛いはずなのにどこか安堵のある気持ちがしばらく心を満たしていた。

兄の死をきっかけに海辺の町に戻った主人公のリー。甥パトリックと関わりを持ちながらリーが立ち回る様子を、快活に振る舞う過去と、人と距離を置く振る舞いの現在を織り交ぜて展開する。どうしてこんなにも彼は変わってしまったのか。過去と現在が交差するある時点に起きた悲劇的な事件に、同情と悲しみを禁じ得ない。

ケイシーの演技が素晴らしい。何気ない動作で心の動きがわかる。静かな動揺、悲しみ、苛立ち、戸惑い、穏やかな気持ち、愛情。
ミシェルウィリアムズもいい泣きっぷり。こちらもつられてこみ上げたし、リーのように「やめてくれ」と言いたくもなった。

It's up to you. 何度も出てくるこのセリフでリーの心持ちの変遷がわかる。始めは逃げや戸惑いからの転嫁だったものが、最後の「君次第だ」では、パトリックにとって良いようにしてあげたいという踏み込んだ気持ちからのものになったのが涙が出る。
自分ではどうにもしてあげられないから。I can't beat it. 以前の自分に似た君が、若くも築いたものがあるこの街に、自分には乗り越えられない、どうにもできないほどのものがある。それと向き合ってとても生きていけない。

一緒にいることが全てではない。自分の人生をそれぞれに生きることが最良だということもある。繋がりをこの土地に静かに置いて去るその別れに、彼らのこれからへの穏やかな光を見た。
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