マンチェスターと言えば…
イギリスでしょう!
…と思っていた自分を恥じ入る。
ボストンから車で1時間半の距離にあるマンチェスター・バイ・ザ・シーなる海辺の町。つまりアメリカでした!
映画を観て、また一つ知識が増えた。
暖炉の火の粉が飛ばないように、スクリーンというものを立て掛ける事も、この映画で知った。
映画は様々な事を教えてくれる。
心が壊れると、人生も壊れる事も。
この映画はそんな人の物語。
リー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)はボストン郊外で暮らす何でも屋。うっ血性心筋症を患っていた兄の訃報を受け、以前まで暮らしていたマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻る。兄の遺言状には、リーを16歳の甥パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人とする事が書かれていた。
随所に挟み込まれた回想シーンにより、徐々に明らかになるリーの過去(現在と過去を細かく交互に見せてくれる編集が絶妙)。
彼が抱える心の闇。
犯してしまった過ち。
リーは甥の面倒を見る為に、戻りたくない故郷に戻り、過去の自分と向き合わざるを得なくなる。
ケイシー・アフレックの哀しみをかみ殺す様な演技が印象的。
彼が抱えていた事の大きさを知る時、言葉を失う。元妻ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)との再会も、心に刺さる。
パトリックがまだ小さくて兄が生きていた頃のリーは活き活きとしていたのに、ある出来事で彼の心は壊れてしまった。
パトリックともうまく関係構築が出来ない。
そんな2人がほんの少しずつだけ歩み寄って、ほんの少しずつだけ折り合いをつけていく。
寒々しい心と寒々しい(けれど美しい)景観がリンクする。
決して大きな波はなく、細やかな心の機微が描かれる静かな映画。若干長く、睡魔に襲われる可能性はあるが、この繊細なドラマは本当に静かな感動をくれる。
兄の残した遺言状は、闇に引きこもってしまった弟を光の下に戻す為に書かれた事を思うと心に沁みる。